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第55話 危機②

 桐谷が公園の入り口に着いたとき、遠くに走り去る足音が聞こえた。  刑事としての直感のようなものが、すぐにその場の異状に気付かせた。  象の滑り台の向こう、公園の奥にある街灯の下で俊がうずくまっている。 「俊っ!?」  彼の元へ駆け寄った途端、心臓が凍りつく。俊が刺されていた。 「俊っ!!」  背中にそっと手を回して彼の細い体を支えながら、スマートホンで救急車を呼んだ。 「俊……、いったいどうして、なんで、こんなことに……」  俊の腹部には深くナイフが沈み、周りの衣服に血が滲んでいる。出血がそれほど多く見えないのは、ナイフが止血の役割をしているからだろう。 「先輩……」  桐谷の腕にもたれかかったまま、俊が薄っすらと目を開けた。 「……僕、やっぱり無理、なのかな……?」 「俊、しゃべるんじゃない。すぐに救急車が来るから」 「僕、先輩と一緒に、生きていきたいって、思ったけど……それは、やっぱり、許されないみたい……」  俊の額に脂汗が浮かび、見ているうちにも顔から色が失われ、紙のように白くなっていく。 「だからもう話すんじゃない。大丈夫、大丈夫だから、俊……!」  桐谷の声が震える。  腕の中の彼がひどく儚く見えた。このまま遠くへ行ってしまい、戻って来ないような不安が桐谷の心の奥から這い上がってくる。

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