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第60話 対決
桐谷は病院をあとにすると、岬へと向かった。
その表情はさっきまで俊に見せていた優しい顔とは別人のように冷たく、険しい。
岬の前に着いたのは、九時過ぎだった。
桐谷は『CLOSED』のプレートがかかったドアを開けると、店内に入った。
薄暗い店内のカウンター席に一人の客が座り、オオサキと向かい合っている。突然の闖入者に驚いて振り向いた客の男は、どう見ても堅気には見えない風貌をしていた。
「なんだ? てめぇ? もう店は閉まってんだよ。表の札が見えなかったのかよ?」
男は自分の話を邪魔され、怒りもあらわにドスのきいた声で恫喝してくる。
オオサキがそれを制して、男に顔を近づけ、なにかを囁いた。多分、桐谷が刑事だと教えているのだろう。男が顔をしかめ、舌打ちをする。
「じゃあな、マスター、また来るよ」
そう言うと立ち上がり、桐谷の横を素早く通り過ぎ、店を出て行った。
店内には桐谷とオオサキだけが残された。
桐谷はゆっくりと歩いて行き、オオサキと対峙する。
「オレが刑事だとよく分かりましたね」
冷たい声で言い放つと、オオサキはさきほどの男が飲んでいた酒のグラスを洗いながら答えた。
「すぐに分かる。目つきと雰囲気でな」
感情のない声だった。
桐谷は拳を握りしめて、怒りを抑えた。オオサキのような人間を相手にするときは、感情を爆発させたら負けだ。
「マスダに俊――安西俊の個人情報の詳細を教えたのは、あなたですね?」
「…………」
オオサキはなにも言わない。表情さえ変えない。
「もう聞き及びのことと思いますが、安西を刺した犯人、マスダカツヒコは、すぐに警邏中の巡査によって逮捕されました。安西のことはあの夜、初めて見かけて狙ったと言ってるそうです。岬もあなたのこともまったく知らないと。……よほど恐れられているみたいですね。オレは以前、確かにここでマスダを見かけているんですが」
「…………」
「あなたは、安西には家族を殺害した犯人たちの情報を売りつけようとし、同時にマスダには安西の個人情報を売る。……これはルール違反ではないですか?」
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