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周焔編(氷川編)61

 ダイニングの方では周と鐘崎がすっかりリラックスした様子で話し込んでいた。 「それよりお前、ここしばらく香港の親父さんの所へは帰ってねえんだろ?」  鐘崎が問う。昨夜、紫月が電話をしたのは、実はそれについての話題だったのだ。 「俺の方は仕事方々向こうに行く用事ができたんでな。もしよかったら一緒にどうかと思ったんだが――」  周にしても昨夜冰と約束もしたことだし、近々帰省しようと思っていたのでちょうどいいタイミングではある。 「俺の方も冰の顔見せがてら、一度帰ろうと思ってたところだ。年内はこっちでの仕事が重なってるが、年明けにでもと思ってる」  周が言うと、 「なら、春節の頃にどうだ」  鐘崎もまさにベストという提案を返す。 「いいな。お前は一之宮も連れてくんだろ?」 「ああ、もちろんだ」 「だったらウチのプライベートジェットで一緒に行けばいい」 「ああ、それじゃ世話になるか」  男同士の話は早々に決まったようだ。  そこへお茶の用意をした真田がワゴンを引いてやって来た。彼の背に隠れるようにして冰もおずおずと付いてくる。周の友人たちと共に居るのが何となく気恥ずかしいのか、はたまた遠慮があるのか、緊張気味で笑顔も固くなっている。そんな様子に、周は自らの隣に座るように呼び寄せると、まるで二人の友に見せ付けるようにして彼を抱き寄せた。 「そんなに畏まることはねえ。こいつらとは昔からの腐れ縁だ。遠慮はいらねえさ」  周の言葉に同調するように、鐘崎も微笑しながらうなずいた。むろんのこと紫月もしかりで、早速フレンドリーに話し掛けてくる。 「そうそ! 氷川の鎖国解禁で冰君ともやっとここうして会わせてもらえたことだし! これからもちょくちょく遊んでくれよなぁ!」 「おい、一之宮――。鎖国とはまたえれえ言い草じゃねえか」 「だってそうだろー? 今までは懐に抱え込んじまって、冰君を見せようともしなかったんだぜ、こいつ。それが急にすんなり紹介してくれるってことは……どういう心境の変化なのかねぇ? よっぽどめでたいことがあったとか? なぁ、氷川君?」  ニヤニヤと冷やかすように紫月が突っ込めば、周には珍しくもタジタジとしながら、苦虫を噛み潰したような表情で言い訳もままならない。してやったりと紫月はしたり顔だ。

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