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告げられないほどに深い愛6
鐘崎とは物心ついた時から幼馴染として兄弟のように育ってきた間柄だ。高校を卒業するまで学園もクラスも一緒で、片時も離れることなくというくらい側で過ごしてきた。もはや相手のことは良いところも悪いところも知り尽くしているわけだが、ただ一つ告げ合っていないことがあるとすれば、それは互いに対する想いだった。
鐘崎も紫月も共に恋愛対象として意識し合っているし、どう想い想われているのかもよくよく理解できているのだが、それを言葉にして伝え合ったことがないのだ。
かれこれ十年以上も胸の内にだけ抱え込んでいる想いを告げられずにいるのには、それ相応の理由があった。
鐘崎の両親は、彼がまだ幼い頃に離縁した。危険を伴う仕事に身を置く環境についていけず、別の男に心を寄せた母親が出ていってしまったのだ。
鐘崎自身も彼の父親の僚一も気にしていないと言うが、周囲からすれば少なからず気遣うところである。紫月にとっても同様で、なるべく母親の話題については触れずに付き合ってきたつもりだ。
組織としてもいわば”姐 ”のいないことになるわけで、いずれ若頭である鐘崎に連れ合いができれば、今度こそ上手くいって欲しいと誰しもが望んでいることだろうと思う。二十七歳といえばそろそろ結婚を意識してもおかしくない年頃だし、実のところ鐘崎にはここ最近ちらほらと縁談話が持ち掛けられていると耳にするようになった。
いかに彼のことが好きでも、紫月は男性であるし、姐 になることはおろか後継を産むこともできない立場である。そんな自分が想いを打ち明けたところで彼を苦しめるだけだ。紫月はずっとそう思ってきた。
だが、鐘崎の方ではどう考えているのか、割合堂々とスキンシップをしてきたりする。今しがただって部屋に入るなり背後から抱き締めてきたりと、紫月にとっては気持ちを揺さぶられる扱いだ。が、彼もまたそうした大胆な行動のわりには、はっきりと言葉に出して『好きだ』と告げてきたことは一度もない。
互いが互いをどう想っているのか、はたまたどういう未来を望んでいるのかという肝心な部分が言い出せないまま、ズルズルと過ぎゆく日々に身を任せているといった状態なのであった。
「はぁ……、今からだと二時間くらいっきゃ寝られねっか」
目覚ましをセットすると紫月はベッドへと潜り込んだ。
「寒……ッ」
暖房は効いているものの、めくった布団の中は冷んやりと冷たい。こんな時に寄り添って温め合える肌が隣にあればと思うと、心にまで冬の冷気が沁み入るようだった。
「あの野郎、無事に帰れたかな……」
距離的にはさして遠くない近所だが、すぐ手を伸ばすところに望めるはずのない温もりを思えば、心の中を冷たい北風が吹き荒ぶようだった。
◇ ◇ ◇
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