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香港蜜月31

 ところが――だ。 「何……ッ!?」  何と、開いたカードはフォーカードどころか、ワンペアにもならない不揃いだった。 「……どうして……そんなはずは……」  既に声にもなっていない。全身をガクガクと震わせながら、その顔面は蒼白を通り越して真っ白になっていく。  そんな男を穏やかな様子で見据えながら、冰は静かに言った。 「お客様がフォーカードを磁気で束ねてくるのは分かっていました。イカサマをなされたのは貴方の方ですね」 「……な……にを……」  先程から少々困惑した素振りを見せていたのは、油断をさせる為のディーラー側の作戦だったのだということを、今になって思い知らされる。男は硬直したままヨロヨロと後退り、掛けていた椅子ごと後方へと崩れ落ちてしまった。 「こんの……ガキが! ふ……ざけるな……! そんなはずはない……そんな……!」  仮に磁気で束ねたフォーカードが見破られていたとしても、男が冰にチェンジさせたのはたったの一枚だ。どんなカードが来ようが、束ねたはずのフォーカードが崩されるわけはないのだ。  最初に配られた五枚を確認した時には、確かにフォーカードは揃っていたはずだ。しかも絵札だった。見間違えるはずはない。  百歩譲ってチェンジの際にしくじったとして、最悪でもスリーカードで勝てたはずなのに、実際に裏返してみれば全くの不揃いになっていた。いったいどうすればこんな結果になるのだろう。男は頭の中を真っ白にしながらも、テーブルの上にあったアタッシュケースにかじりつくようにして覆い被さると、すぐさまそれを抱えて逃げ出そうとした。 「退けッ! 邪魔だ、退きやがれ!」  だが、周りは既にファミリーの側近たちが取り囲んでいる。逃げられるわけもなかった。  すぐに取り押さえられ、現金の入ったアタッシュケースも取り上げられてしまった。  一方、その様子を隣のルーレットのテーブルで窺っていた男の仲間も、彼を見捨ててその場を立ち去ろうとしたところ、レイと紫月に足を引っ掛けられて転ばされてしまった。 「あら! あらあら、大変! 大丈夫、あなたたち?」  わざとらしい女言葉の紫月に見下ろされる傍らで、鐘崎が俊敏に二人を取り押さえる。もがく彼らのポケットからこぼれ落ちた物を、これまたわざとらしく拾い上げたレイが、場内の客たちに見せびらかすように高々とそれを掲げてみせた。 「おい、こりゃ一体何だ?」  カチカチとボタンを押したり戻したりしながら、 「ああー! もしかしてあんたら! あっちの男とグルで、ルーレットでもイカサマしてたんじゃねえのか? どうりでさっきっから連勝するわけだ!」  こうして仲間たちもすぐにファミリーの側近に取り押さえられ、苦しくも企みは大失敗に終わったのだった。  一方、カジノの入り口は既にすべてが閉鎖されており、他にもイカサマを仕掛けた仲間がいないかという捜査からも逃れる手立てはなかった。その間、裏方でイカサマ組織の割り出しに取り掛かっていた源次郎が、日本にいる鐘崎の父親とリモートで繋ぎながら、早速に敵の正体を突き止めていたのだ。  場内には帽子の男らの他にも業者を装った数人が潜り込んでいるのも分かって、そちらもすべてお縄にしたのだった。

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