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香港蜜月30

(随分と気の強いガキだ。この若さからすると、さしずめディーラーになって間もないといったところか。必死にポーカーフェイスを装っているつもりだろうが、動揺が見え見えだぜ)  こんなディーラーしかいないとすると、周一族のカジノも噂に聞くほど大したことはないなと、せせら笑いがとまらない。 「ディーラーさんよ、俺はマジックを見に来たわけじゃねえんだ。早いとこ勝負に取り掛かろうじゃねえか」  ニヤニヤとしながら、もう少し追い詰めてやらんとばかりに上目遣いでしゃくってみせる。 「え? ああ、失礼致しました」  冰は弄っていたカードを元の通りに束ねると、男に向かって差し出した。 「ではお客様、勝負と参りましょう。どうぞお切りください」 「いい度胸だ」  男は不敵に笑うと共に、聞こえるか聞こえないかのような小声で、「後で吠え面かくな!」そう言ってカードの束を受け取った。  場内は水を打ったように静かになり、誰もが固唾を呑んで二人の勝負に釘付けになる。  特に周や鐘崎、紫月など親しい者にとっては、シャッシャッというカードの切られる音が止むまでの間が永遠のように思えていた。 「よし、じゃあ配ってもらおうか。もう一度言うが、配るのは五枚いっぺんにだぞ?」  男が念を押すのにうなずくと、冰は言われた通りに上から五枚を男の目の前に並べ、続いて自らの前にも五枚を並べた。 「チェンジは何枚に致しますか?」  男がチラリとカードを確認したのを受けて、そう尋ねる。 「一枚だ」 「承知致しました」  冰は新しい一枚を男へと差し出し、自らも三枚ほどをチェンジした。 「では賭け金を」 「いいだろう」  男は手にしていたアタッシュケースをテーブルの上へと持ち上げると、自信満々の様子でその蓋を開けてみせた。  中には帯封の付いた札束がぎっしりと詰められている。それを目にしただけで、周りのギャラリーたちも息を呑む。 「勝負だ。ディーラー、てめえからだ」  男に顎でしゃくられて、冰は手持ちのカードを裏返す。 「ダイヤのジャックとスペードのシックスのツーペア! やった!」  冰はディーラーらしからぬはしゃぎ顔で喜んでみせた。  すると、男はひと言、 「バカか!」  嘲るように言い放ちながら、腹を抱えて笑い出した。そして自らの手札をろくに確かめもしない内から、 「こっちは絵札のフォーカードだ!」  得意満面で裏返してみせた。

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