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狙われた恋人17

『俺が組を守り通せば、遼は必ず無事に帰って来る。そう信じて、今は組を守ることに全力を注ごうと思ったんだよ』  それは鐘崎が他所の組から罠に嵌められた時の話だ。宴席でいかがわしい薬を盛られて窮地に陥り、たった一人で夜の街を彷徨うハメになった鐘崎の行方を捜す傍らで、組事務所には彼を嵌めた組織が乗り込んできて暴れ始まったという事態に、紫月が立ち向かった際のことだった。  今、まさに自分と周の上にも似たような窮地が訪れる中、冰はその時の紫月の心意気を思い出しながら、自分はどうすべきかを必死に思い巡らせるのだった。  どうすればいい――?  周を張の魔の手から守り、また自らも周のもとへと無事に帰るにはどう立ち回ればいいというのだ。  焦る冰の脳裏に、ふと在りし日の黄老人の言葉が蘇った。  いいか、冰。ディーラーは常にポーカーフェイスを崩してはならない。これは基本中の基本なのは分かるな? だが、それだけじゃダメだ。  客のタイプをいち早く読み取り、それに合わせて自分を自由自在に変えられるようになるんだ。  押しの強いタイプには、真正面からぶつからずに、かと言ってあからさまに避けることなく適当にあしらいながら相手を軽くかわせる柔軟さ。  常に自分が一番で他を見下す自信家タイプには、一見相手を持ち上げつつも、柔和でいながらしてサラりと裏切る狡猾さ。  気のやさしく何でも他人に譲ってしまうようなタイプには、ポーカーフェイスを装いながら自然と勝たせてやるさりげなさ。  ――つまり役者的な要素だ。客のタイプによってお前はまったく違う人間になり、その時々の相手を上手く掌で転がしていく臨機応変さを身に付けるんだ。  相手のタイプによって上手く掌で転がしていく臨機応変さ――。  では、この張という男はどんなタイプといえるだろう。  自信家で強引で、何でも自分の思い通りにならないと気が済まないタイプ――俺にこの人を狡猾に転がす演技ができるだろうか。この人を操って、この人の上を行くにはどんな人間になればいいのだろう。  だが、迷っている時間はない。一か八か、賭けに出るしか道はない。  じいちゃんの教えてくれた通り、上手くできるか分からないけどやるしかない。  今から俺は役者だ――。  張というこの人を受け入れるふりを装いながら油断させ、こちらのペースに引き込んで一気に突き崩す。  あまり自信はないけど、白龍を救うにはそんな弱気じゃダメだよね。  ――できるよ、できる。紫月さんが鐘崎さんを信じて身体を張ったように、俺も覚悟を持つんだ。裏社会に生きる男の伴侶であるなら、時にはそういう強さも必要なんだって紫月さんが身をもって教えてくれたんだもんな。俺にもできる。だって俺は、周焔白龍の唯一無二の恋人、伴侶なんだから――!  冰はひとたび大きく深呼吸をすると、覚悟を決めたようにカッと意思のある瞳で目の前の張に微笑みかけた。 「張さん――でしたね。あなたはそんなに俺のことが欲しいんでしょうか?」  今までの素直で気の弱そうな青年の印象を百八十度翻すような、ひどく落ち着いた物言いに、張は不思議そうに首を傾げながら冰を見やった。

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