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狙われた恋人18

「……何だ、藪から棒に――」 「自分で言うのもナンですが、確かに俺は――ディーラーとしての腕はまあまあいい方だと思います。でも、神業というほどじゃない。そんな俺を――周一族を敵に回してまで手に入れる価値はあるのかなって思いまして」 「――いきなりどうした。謙遜するな。キミの腕が確かなのは春節イベントの時にこの目で確かめさせてもらった。”その”周一族を敵に回したとて手に入れる価値は充分にある。俺はそう踏んでいるが――」 「……そうですか。そんなに高く見てもらえて、俺も光栄ですけどね。でも――正直なことを言ってしまうと、俺、そんなにいいヤツじゃないですよ?」 「――どういう意味だ」  この張という男は、どうやらこちらのことを周家の養子だと思い込んでいるようだし、ここはひとつそれで通すのもいいかも知れないと冰は思っていた。 「あなたもさっき飛行機の中でおっしゃってましたけど、身寄りを亡くした俺を拾って育ててくれた黄のじいちゃんが亡くなった途端に、周一族に取り入って養子にまでしてもらった俺です。恩も感謝も、義理も人情も全然ない無礼なヤツですよ? 周さんの養子になったのだって、香港マフィアの頭領といわれる家柄なら贅沢な暮らしができると思ったからですし」  まるで悪気のなく平然と言ってのける冰の様子に、張は軽く眉根を寄せてみせた。 「――それが本当のキミだというのか? さっきまでは随分と気の弱そうな、というよりも性質の好さそうな若者に見えていたがね」 「猫を被っていただけです。だってそうでしょう? あなたがどんな人なのかも分からないし、おとなしく様子を見るのは当然でしょう? ただ、張さんが本当にこんな俺でもいいとおっしゃってくださるなら――俺、張さんの元で暮らす人生もありかなって思って」 「――ほう? これはまた……驚きの発言だな」 「正直言って、俺は安泰に暮らしていけさえすれば、周さんでも張さんでもどちらでもいいんですよ。ただ、周さんに毒針を打ち込んで殺したりとか……そういうのは絶対に御免です。例え足がつかないって言われても、ここに来た直後に周さんに何かあれば、疑われるのは必須です。相手は香港を仕切っているマフィアなんですから。追い掛けられて一生逃げ回るなんて冗談じゃない。俺は平穏に生きたいんです」 「ほう……? 随分とまた狡猾なことだな」 「そういう人間なんですよ、俺。周さんの養子になったのだって、大きなカジノでディーラーをさせてもらえるんならと思っていたのに、日本語ができるからって理由だけで、今は日本の商社で秘書をさせられてます。生活はまあ快適だし、仕事は楽だし、別に今のままでも文句なんてないんですけどね。でも、本心を言えばやっぱりディーラーがしたいんです。張さんは俺をディーラーとして認めてくれているようですし、俺としてはその方がどんなに嬉しいか……」  切なげに瞳を震わせながら、上目遣いで張を見やる。今にも瞳にたまった涙の粒が零れて落ちそうな表情で、冰は儚げに微笑んでみせた。

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