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恋敵32
「張の話では、イカサマカジノを潰す手伝いの準備で買い物に出掛けたとのことだったな。ひょっとすると、そのカジノを潰す手伝いってのも唐静雨という女が横領した金を補填するのが本当の目的じゃねえのか?」
鐘崎の言葉に周は険しく眉根を寄せた。
「補填だと? 何故あいつらがそんなことをする必要がある」
「これは俺の憶測に過ぎんが、レストランに現れた男たちが横領絡みでわざわざ女を香港から追って来たとすれば、そこの会社としては当然女に返金を迫ったはずだ。だが、女は既に金を使っちまって返せる当てはない。とするなら――手っ取り早く色でも売らせるか、もっとするなら臓器を売り飛ばすかってな方法で返済させようとするだろう。それを冰が知ったとしたらどうだ」
「まさか――」
周が驚きに目を見張る。
「そうだ。そこへもってきて偶然にも張と出会い、イカサマカジノを潰す計画を知った。冰ならどう動くと思う?」
「何とかして女を救おうと……返済の金を揃える為にカジノで稼ぎ出そうとしている――ということか?」
「冰なら考えそうなことじゃねえか? ついでに張の仕事も手伝ってやれることになるし、言葉は悪いが一石二鳥だ」
「まさか――それであいつらは動いてるってのか……」
「そう考えれば辻褄が合うということだ」
周にはおおよそ考えもつかない行動だが、やさしい性質の冰ならば有り得るかも知れないと思えた。
「おそらく女はホテルに居て、拘束されている。冰が金を持って戻れば解放するという取り引きかも知れん」
「じゃあ、冰のGPSがホテルにあるということは――」
「ああ、その通りだ。取り引きの抵当代わりに高価な腕時計を預けて行った。と同時に、もしも約束を違えて女が売り飛ばされた場合、敵の位置を知る為の手掛かりにもなると思った――ってところかもな」
鐘崎の推理に、周は珍しくも言葉少なで額を蒼白く染めてしまった。冰にとって、女は何の関係もない人間だ。それどころか、周の元恋人だなどと聞かされて心を乱された、いわば厄介な相手であるはずなのに、その女の為に心を砕いて行動しているのだろうことを思うと全身が掻きむしられるようなのだ。
「女がお前の元恋人と聞いては放っておけなかったのかも知れん。しかし、今俺たちが想像した通りだとするなら冰は本当にすごいヤツだな。ディーラーとしての腕前もさることながらだが、どんなキレ者のエージェントでもこの短時間に事態を把握分析し、出来得る限り最善な方向へ持っていこうとする頭脳と行動力には驚くばかりだ」
「カネ――」
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