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厄介な依頼人61

「けど、天気が良くて良かったっスね! これなら綺麗な十五夜が見られそうだ」  まるで自分が参加するかのように喜ぶ口調が素直さを物語っていて実に可愛らしい。 「若たちやお客人とはまた別の庭だが、今宵は俺たちもご相伴に与れるそうだ。ここの飯は本当に旨いから楽しみにしておけよ」 「マ、マジすか? うはぁ……入って早々の自分が参加してもよろしんですか?」 「もちろんだ。若と姐さんからもそう言われているから、安心してたくさん食えばいい」 「あ、ありがとうございます! 感激です!」  言葉通り実に嬉しそうに頬を染める。春日野はいい舎弟が入ってきてくれたことを嬉しく思うのだった。  その夜、見事に晴れ渡った空に中秋の名月が顔を見せると同時に、女性陣たちの艶やかな着物姿で鐘崎邸の中庭には感嘆の溜め息が渦巻くこととなった。  ギリギリで到着した周の父と兄も揃い、また周家からは側近の李や家令の真田らも呼ばれて、広い庭も今日だけは所狭しといった賑わいを見せている。メイクを担当した倫周とレイも思い掛けず日本情緒に触れられたことを大層喜んでくれていた。  そして、今回三崎財閥の件では何かと世話になった友人の粟津帝斗も顔を揃えていた。いろいろと尽力してくれた彼への礼方々、鐘崎と紫月が招待したのである。 「遼二と紫月も入籍したそうだね! いや、本当におめでとう!」  わざわざ祝いの品まで持参してくれた帝斗に、二人は心からの礼を述べた。 「そういえば繭嬢だけれどね。彼女、元気に華道教室にも戻って来てくれてね。遼二のことを彼氏だなんて嘘をつくようなことをしてしまって申し訳ないと皆に丁重に謝っていたよ。一時はどうなることかと心配したけれど、彼女も乗り越えられたようだね。今じゃ教室の皆と一緒にボーイズラブにハマっているらしくてね、僕までコミックやらボイスドラマやらに付き合わされる今日この頃さ」  爽やかに笑いながら帝斗が言う。それを聞いて、紫月も鐘崎も安心したように笑顔になるのだった。 「繭っちも辛い思いもしただろうが、元気になってくれて良かったぜ!」 「紫月とは随分と仲良くなったようだね?」 「ああ、お陰様でなぁ! たまに電話もくるし、こないだは俺ン好きなケーキバイキングにも誘ってくれてさ。氷川ンところの冰君と一緒に楽しんできたばかりだ。今じゃ妹が一人できたような感じだぜ!」 「へえ、そうなんだ! さすがは紫月だねぇ。多感な年頃の娘さんをこんなに大きな心で包み込んでしまうんだから、ホント大したものだよ。それでこそ鐘崎組の姐さんだな!」  帝斗に感服されて、側で聞いていた鐘崎も誇らしげにうなずいてみせた。 「本当にな、俺なんぞにはもったいねえくらいの最高の伴侶だ」  心からの笑顔で愛しげにパートナーを見つめる鐘崎の瞳に中秋の名月がやわらかに映り込む。  ふと視線を上げれば、艶やかな着物姿を堪能する友とその家族、そしていつも側で見守ってくれる源次郎や清水らのとびきりの笑顔と笑い声があふれていることにこの上ないあたたかさを感じる、そんな幸せな夜が賑やかに更けていったのだった。 厄介な依頼人 - FIN -

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