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極道の姐10

「通信機器なんかも殆ど揃っていねえから、最小限のものだが自前で用意していくことになる。そっちの方は源さんがやってくれている。普通の旅行と違って荷物も多くなると思うが、管理を頼んだぜ?」  それこそ姐にしかできない立派なサポートである。 「うん、源さんを手伝って抜かりのねえようにやっとく! 任せてくれ。そういえば今回は親父さんも来てくれるんだろ?」 「ああ。親父は台湾での仕事が済み次第、直接現地へ合流してくれることになってる」 「ンじゃ、親父さんの着替えなんかも用意しておくわ! 台湾と違って山岳地帯じゃ厚手のものなんかも必要になってくるだろうしな」  紫月は張り切ってうなずいたのだった。  今頃は汐留の周邸でも同じような会話がなされている頃だろうか。今回は冰も同行するし、もちろん側近の李と劉、それに慣れない土地での身の回りの世話なども想像以上に大変だろうからと、家令の真田も同行するようである。かくいう鐘崎組からも源次郎が一緒に行ってくれることになっているので、何かにつけて心強いといったところだ。出発まで十日あまり、紫月も荷造りやら留守中の細々とした手配などに精を出すのだった。 ◇    ◇    ◇  そうして無事に現地入りを果たした一行だったが、幸いというべきか、これまでの間に例のサリーという女からはあれ以来何の連絡もなかった為、煩わされることのなかったのは有り難かった。一方の周の方でも、気に掛かっていた唐静雨の目立った動きも見られないことから、こちらが危惧していたような未練などはないのだろうと安心してもいた。これで気兼ねなく仕事に専念できるというものだ。男たちは愛する伴侶と信頼できる側近たちと共に普段は味わえない山岳地帯での生活を楽しもうと意気込んでもいたのだった。  ところが――である。  周と鐘崎、それに周の兄の風まで巻き込んで、とんでもない事態に一転することとなったのは、視察に出て一週間が経った或る日のことだった。  その日は朝早くから鉱石の採掘場への視察の為、周と鐘崎、それに周の兄の風が三人で出向いて行った。運転手兼案内役として地元住民の一人が連れ立って出掛けたわけだが、夕方になっても彼らが帰って来ないことで少々騒ぎが起こり始めたのである。  視察の為の拠点として、寝泊まりなどは麓の村の集会所を使わせてもらっていて、一行は周家と鐘崎家の面々が揃って共同生活を行なっていたのだ。

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