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極道の姐12

 その推測に紫月と冰は蒼白となった。 「……拉致と事故か。両方の可能性を考えて二手に分かれた方がいいか」  紫月はしばし考え込んだ後、即具体案を口にした。 「よし、先ずはここの周辺住民の方々の中で採掘を手伝っていた人がいないか村長さんに訊いてみよう。彼らの内の誰かが視察に行った遼二たちを覚えているかも知れない。もしも無事に現場に到着していれば、そこへ行くまでの道中は無事だったことが確認できる。遼たちが採掘場を出たかどうかも分かれば尚有り難い」  つまり、仮に事故に遭ったと仮定して、ある程度の足取りが掴めれば、鐘崎らが何処で難儀しているかが想像しやすくなるというものだ。落盤など採掘場での事故なのか、往復の途中での脱輪や車の故障等なのかが分かれば捜しやすくなる。 「俺と冰君で村の人たちに訊いて回るから、源さんたちは引き続きGPSを追ってくれ。仮に機器の不具合じゃなく本当にマカオにいるとするなら拉致の可能性が高い。GPSの位置が移動しているかも含めて、できるだけ詳しく追ってみてくれ」 「かしこまりました!」  紫月の言葉を受けて源次郎や李らがうなずく。不安な緊急時の中でオロオロとしたりせずに、冷静且つ現実的な救出方法を模索する彼に、頼もしさと勇気を与えられる気がする源次郎たちだった。 「それから、源さん。遼二の親父さんがこっちに合流してくれるのは確か明日だったよな?」 「はい、そうです。明日の午後にご到着できるとのことで、先程ご連絡をいただいております!」 「そっか。親父(おや)っさんが来れば更に心強いが、それまでの間にできるだけ情報を集めておこう」  紫月は言うと、冰と共に集落の村長の元へ向かったのだった。  すると、住人たちの中にも紫月の想像した通り採掘に携わっている者たちが見つかった。だが、誰も視察に来た鐘崎らを見掛けた覚えがないという。現場でも監督ら上の者たちが案内の準備をして待っていたそうなのだが、一向に来る気配がないと気を揉んでいたらしいことが分かってきた。 「……ってことは、遼たちは採掘場へは行ってねえってことか」  だとすれば往路で事故に遭ったか、もしくはその道中で拉致などの予期せぬ事態に巻き込まれた可能性が高い。 「採掘場まではここからだと車で一時間といったところか……。早速に捜しに出た方がいいな」  既に夜の闇が降りてきていて辺りは真っ暗だが、これからは刻一刻と冷え込みも激しくなる時間帯だ。猶予はない。 「よし、戻って源さんたちと急いで捜索に出掛けよう」 「そうですね。もしも怪我などをしていたらそれこそ大変ですし……」  紫月と冰がそんな話をしていたちょうどその時だった。村人たちが何やら慌てた様子で、一人の男を羽交い締めにしながら駆け付けて来たのに驚かされる羽目となった。

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