322 / 1192

極道の姐13

 見れば、皆に押さえ付けられているその男は、なんと朝方鐘崎らを乗せて麓を出発した運転手だった。 「申し訳ありません! こいつがこっそり家に戻っていたのを見つけて事情を問いただしたところ、とんでもないことをしでかしたことが判明しまして……」  村人たちの言うには、運転手の男が金と引き換えに鐘崎らを見知らぬ外国人に引き渡してしまったというのだ。 「引き渡したって……どういうことだ!」  村長が蒼白となって怒鳴り上げ、村人たちも皆で運転手の男を詰り始めて、あっという間に大騒ぎとなった。 「待ってください! 怒ったところで始まらねえ。とにかくその人に詳しい経緯を聞かせてもらいたい」  紫月が仲裁に入って、ようやくと場が収まりをみせる。運転手もさすがに逃げられないと悟ったのか、うなだれながらも鐘崎らを引き渡した経緯を話し出した。  彼によれば、朝ここを出てから採掘場へは向かわずに麓を更に降ったということだった。鐘崎らを乗せた車は、元々運転席と後部座席が仕切られていて互いの顔も見えない造りになっていた為、出発するとすぐに後部座席に催眠剤を流し込み、彼らを眠らせたらしい。  そもそもこの話を持ち掛けられたのは数日前のことで、相手は初めて見る外国人の男だったそうだ。こちらの言語は話せないらしく、通訳として男の仲間らしきアジア人の女もいたという。見たこともないほどの金品をチラつかされて、つい誘いに乗ってしまったことを今では後悔していると言って詫びた。肝心の催眠剤もその時に手渡され、眠らせる手順なども教えられたままに行ったのだそうだ。  催眠剤を流し込んで少し車を走らせた先で外国人の男が別の車で待っていて、鐘崎らを引き渡す手順になっていたそうだが、その時には相手は数人に増えており、誰もが危険な雰囲気をまとっていたという。怖くなった男は逃げるようにその場を立ち去ってきたのだそうだ。その後、密かに村へと戻って来てから、今まで家でじっと身を隠していたというわけらしい。  とにかく経緯は分かった。つまり、事故ではなく拉致であることが明らかになったわけだ。紫月と冰は一目散に集会所へ戻ると、早速に救出の手筈を整えるべく動き出したのだった。  一方の源次郎らの方でもGPSの動きから、どうやら拉致である可能性が高いと判断していたようだ。紫月らの話を受けて、早々に村を引き上げ、拉致された三人を追うこととなった。  村長をはじめ、村では道路開発に尽力してくれた周や鐘崎に申し訳ないことをしたと平身低頭で驚愕していたが、今はとにかく救出が第一である。皆に見送られながら、一路マカオへと向かうべく村を後にしたのだった。

ともだちにシェアしよう!