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極道の姐14

 そうして一行がマカオに到着したのは、空が白み始めようという頃だった。  道中で鐘崎の父親にもその旨を伝え、落ち合うのはマカオと決めた。と同時に、周家の頭領である隼にも瞬時に情報が伝えられる。隼にとっては実の息子が二人いっぺんに拐われたわけである。ファミリーとしてもただごとでは済まされない事態に、一行がマカオ入りした時には既に側近の精鋭たちを大勢引き連れた隼本人が現地で捜索に動き出していた。 「頭領(ドン)(スェン)!」 「ああ、源さんか! 既に三人が捕われていると思われる現在地は突き止めている。ただ、少々厄介な場所で近付くのに時間を要している」 「――とおっしゃいますと、危険な地域なのでしょうか?」 「単純に言えばその通りだ。スラム化していて、一帯に入り込むには地理に明るくないと困難だそうだ。幸い張敏(ジァン ミィン)があの辺りを仕切っている連中に渡りをつけてくれるというので、待機しているところだ」  張敏というのは、以前に冰のディーラーとしての腕前に目をつけて、わざわざ日本にまでやって来て彼を拉致した経緯がある男のことだ。今ではすっかりその時のことを後悔して、以来地道にカジノ経営に精を出している。冰の事件をきっかけに、隼がここマカオに所有していたシャングリラというカジノの運営を張に任せた恩もあってか、すっかり周ファミリーとも信頼の厚い関係になっていた。 「張敏はここいら一帯ではかなり顔が利くようでしたな」 「ああ。助力を申し出たところ、すぐに動いてくれたんで有り難いことだ」  張は一代で彼のカジノを築いたやり手でもある。一匹狼タイプで腹黒く、強引なところもあったわけだが、故にマカオの裏社会にも明るく、様々な方面に広く顔が利くし、なにかと頼りになる男なのだ。隼が打診したのはまだ深夜だったが、非常事態を察した張は即座に駆け付けて調査に取り掛かってくれたそうだ。  その張からの報告が上がってくるのを待ちながら、紫月と冰は村で聞いてきた経緯を隼らにも説明がてら拉致犯の割り出しに頭をひねっていた。 「村人の話では外国人の男にそそのかされたということでしたが、その男自身はこちらの言語に明るくない様子で、どうやら英語圏の人物のようです。通訳はアジア人の女が行っていたとのことです。女が仲間だとして、単にその男といい仲というだけで通訳を買って出たのか、それとも主犯は女の方で、男は実行犯として女に動かされているだけなのかによって状況は変わってくると思うのですが――」  紫月の説明に隼らも推測を重ねていく。犯人の目的が誰であるかによっても対策の打ちようが変わってくるからだ。

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