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極道の姐15

「仮に頭領・隼やウチの親父さんを誘き出す餌として三人が拉致されたなら、既に何らかのコンタクトがあってもいいはずです。それが未だにないということは……犯人たちの目的は遼二か周焔、もしくは兄貴の風さん、あの三人の内の誰かが本来のターゲットなのかと考えられます」  紫月の仮説に皆もうなずかされる。 「確かに……拉致されてからもう少しで丸一日が経とうとしています。身代金などが目当てなら、とっくに脅迫の連絡があってもいいはずですな」  源次郎も口を揃える。 「ここまでのことをふまえて考えると、犯人の一人は英語圏の男で、連れの女はアジア系で広東語が分かる人物ってことになります。あの三人の内の誰かに個人的な恨みを持っているか、拉致してまで何かに協力させようとしているか。そういった人物に心当たりがあるかってのを考えてみているんですが、俺らが思い当たるとすれば、直近では組に後見を頼んできたホステスのサリーって女くらいか……。ですが、もしも彼女が事を構えるとすれば日本国内でっていう方が確率は高そうに思えます」  まあそれもそうだろう。鐘崎に直談判するだけならこれまでも再三してきたわけだし、どうあっても聞き入れてもらえないことを逆恨みして何かをしでかすつもりならば、わざわざこんな山奥の採掘場にまで出向くよりは何かと行動しやすい普段のテリトリーの中で行う方が採算がとれるというものだ。  サリーは無関係だと仮定して、他に恨みを買っているのかも知れないが、とりあえずのところ思い至らない。目的が鐘崎でないのなら、ターゲットは周兄弟のどちらかか――あるいは両方ということも有り得るかも知れない。ファミリー絡みの敵対組織という可能性もある。  しばしそれぞれに思い当たることを巡らせる中で、周の側近である李が苦い表情で口を挟んだ。 「もしかすると……犯人の目的は焔老板かも知れません」 「焔が目的だと? 何か思い当たることがあるのか?」  隼が訊く。 「実は――以前に焔老板と冰さんを煩わせた唐静雨という女ですが、最近になって米国に渡り、現地のマフィアと懇意にしているという情報を得ていました。現時点では特に何かを仕掛けてくるわけではなかったので、様子見をしていたところなのですが」 「なるほど……。英語圏の男にアジア系の女というところは条件にハマるか。焔への想いを諦め切れずに米国で知り合ったマフィアの男をそそのかして拉致させたとも考えられるな。残る可能性は風がターゲットの場合だが、英語圏の男ということで絞り込むなら、実は風のヤツも学生時代に米国留学をしていたことがあるんでな。その頃に誰かに恨みを買ったのかも知れない――」  だが、その頃からはもう十年以上が経過している。可能性という面でいえば、一番はやはり唐静雨という女だろうか。皆の推測を耳にしながら、冰は募る不安に心を震わせていた。

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