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孤高のマフィア9

 とにかくは席に戻るも引き続き彼ら六人の様子をチラチラと窺うのをやめられずにいた。その後次々に料理が運ばれてきて全員で食事を始めたが、そのところどころで周が隣の男の世話を焼く様子が見てとれた。自分の皿から彼の皿へと料理を取り分けてやったり、調味料を取ってやったりしている。しかも嫌々気遣っているというのではなく自ら進んでそうすることに満足しているふうに感じられる。逆もしかりで、弟と思われる男の方も周にドリンクを注いでやったりしていて、とにかく仲睦まじいといった雰囲気なのだ。 (何なんだ、あいつ……。 弟じゃないのか……?)  一昨日は確か家族だと紹介されたが、よく考えると顔立ちなどはまるで似ていない。兄弟でないというなら一体どのような間柄なのか。嫁だの亭主だのと言っていたところからすると、まさか男同士で結婚している――あるいはそれには近い関係だとでもいうのだろうか。香山は沸々と湧き上がる衝動を抑え切れずに困惑しきってしまった。  その後、周らが食事を終えてレストランを出て行ってからもしばらくは呆然としたままその場を動けずにいたが、帰りの新幹線の時間が迫ってきたので仕方なく東京を後にするしかなかった。待ち合わせていた女房と子供たちとは駅で合流したものの、正直なところ頭の中は先程見聞きしたことでいっぱいで、ろくな会話もないままに博多の自宅へと戻った。女房の方はそんな香山の態度に不満そうであったが、当の本人はそれどころではない。周と共にいた秘書兼家族だという男のことが気になって気になって仕方なかった。  それから一週間が過ぎ、次の週末がやってくると、いてもたってもいられずに香山は一路東京へと向かった。帰って来たばかりでいったい何の用があるのかと当然女房は目を吊り上げたが、何とかごまかして博多駅へと急ぐ。目的は言わずもがな、周の社についての詮索であった。  香山淳太は今から八年前に新卒で周の社に就職した。九州の実家からは遠かったが、家業を継ぐ前に世間を見てくるという意味でも勉強になると、両親も反対せずに上京を快諾したのである。当初は四、五年勤めたら実家に戻るつもりで入社したものの、一年足らずで辞めてしまった。理由は仕事がきついからとか自分に合わなかったからというわけではなく、香山自身の気持ちの問題であった。何を隠そう、香山は社長である周に好意以上の想いを抱いてしまったからである。  周は外見からして老若男女誰が見てもほぼ万人がいい男だと認めるような容姿だが、いざ接してみると気取ったところはなく社員たちに対してもフランクで、もちろん仕事の面でも申し分ないデキた男であった。香山が入社した頃はまだ貸店舗からのスタートであったが、日々クライアントも増えていくしで将来はきっと大きな企業に発展するだろうという確信が持てる社であったのは間違いない。家業を継がずにここで一生を賭けるのも悪くないと思えるような勢いのある企業だった。

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