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慟哭23
「その大河内についてだが――その後の調べでヤツにはかなりの借金があることが判明した。どうも博打に嵌っていたようでな。辰冨の公金に手をつけていたことを娘の鞠愛に知られて、仕方なく今回のことを引き受けたようだ」
鞠愛から提示された報酬は背負っていた借金を覆すに十分な額だったそうだが、今にして思えば本当に彼女が支払ってくれたかどうかは分からないと言って後悔の念を口にしたそうだ。
「いずれにせよ任務を解かれ、実刑は確実だろう。父親の辰冨は責任を取って辞任を決めたそうだが――」
驚いたのはそこに至る経緯だった。なんと辰冨鞠愛は鐘崎らが引き上げた直後に大河内の手にしていた拳銃を奪い、彼の口を塞ごうとしたとのことだった。それについては周も半ば仮定で口にしていたものの、唯一読みが外れたのは鞠愛が大河内を殺害しようとした理由の方だった。
丹羽の話ではなんと鞠愛は大河内を手にかけたのは鐘崎だと言い張ったというのだ。これには鐘崎と紫月はもちろんのこと、周らもひどく驚かされてしまった。
「大河内を片付けてカネの仕業にしようとするとはな。てめえの悪行を隠す為にヤツの口を塞ごうってんならまだしも、カネを陥れようなんざ……どこまでも下衆なことを考えやがる――」
怒り以前に呆れてものも言えないといったふうに周が腹立たしさをあらわにする。
「確かに――大河内を生かしておけばすべてがバレるというのも動機のひとつだったかも知れないが、鐘崎が殺ったことにしちまえば一石二鳥とでも考えたんだろう。たまたま大河内が手にしていた拳銃でトドメをさそうとしたようだ。殺ったのは鐘崎だと言い張っていたが、拳銃からはあの女の指紋がベタベタ出たからな。指紋の位置どり、力加減、すべてが間違いなく女が撃ったということを示している。言い逃れはできんさ」
弾は数発発射されていたそうだが、そのどれもが急所から外れていて、大河内は九死に一生を得たとのことだった。鐘崎ならば一発で仕留めるだろうし、丹羽にとっては鐘崎が全員を峰打ちだけで済ませていた時点で、大河内を殺害するようなリスクは選ばないと確信していたそうだ。鞠愛はその場で大河内殺害未遂として現行犯逮捕され、その後の大河内らの証言から紫月殺害未遂の首謀者としても実刑となるのは確実であろうとのことだった。
「どうもえらく根深い恨みがあるようでな。取り調べでも呆れるほどにお前さん方への恨み言をほざいているとか」
手に負えないと呆れつつも、まあとにかくは紫月が無事でよかったと丹羽も肩の荷を下ろしたようだった。
「それで――既に僚一さんにもお話したが、今回のことは我々警視庁から公安の手に預けることになった。テロリスト同士の内紛ということで、内密に片付けられることになろう」
テロリストと大使館が絡んでいることもあって、通常の裁判といった公の形にはしないとのことだ。むろん、被害者が誰だったのかということや救助に当たった周らのことについてもすべての情報が伏せられるとのことだった。
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