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陰謀30
「父さんは俳優をしていたけれど、正直に言ってあんまり売れない俳優だったんだ。俺は……いつか父さんと母さん、それに妹にも楽をさせてあげられるようになりたくて、父さんが出演する映画のオーディションを受けました。合格して、チャンサンという芸名をもらって映画に出た。端役だったけど、少しお金が貰えた時は嬉しかった」
それが美紅の録画していた例の王子役の映画だ。チャンサンというのはやはり芸名だったというわけだ。
彼は続けた。
「そのお金で妹に流行りの服を買ってあげたらすごく喜んでくれて……俺はそんな妹の顔を見てるだけで幸せだった。このまま本格的に俳優を目指してお金をいっぱい稼げるようになろうって……思ってた時に父さんが倒れて……」
ポロポロと涙をこぼす彼の肩を冰はそっと抱き包んだ。
「そうだったの……。辛かったね」
まるで我が子を抱き締めるように慈しみながら背中を撫でた。
「ごめん……なさいッ……! いくら困ってるからって……あんな話に乗った俺たちがバカでした! 周焔さんやあなたにも……迷惑掛けて」
嗚咽して謝る息子の肩を冰はずっとさすり続けながら、自らもまた涙を流した。
「いいんだ。いいんだよ。キミのお母様は周の命を救ってくれた恩人だもの。キミたちがそんなふうに苦しい時に……気付いてあげられなかった僕たちこそごめんなさい。でも話してくれてありがとう。本当にありがとう!」
冰はそれと同時に心配しないでと言って息子を抱き締めた。
「もうすぐ周も帰って来ます。全部彼に話そう。きっと力になってくれるから――!」
「う……っ、え……、冰さ……ごめんなさ……ッ」
共に涙しながら抱き合う二人は確かに赤の他人だ。だがしかし、不思議な縁によって結ばれた強い絆が二人を家族のようにあたたかいもので結びつけた――そんな触れ合いに李もまた胸を熱くするのだった。
その後、周が帰って来ると、ちょうど医師の鄧の方でもブライトナーから届いたという検査結果を手に興奮気味で駆け付けて来た。
「老板! すべて明らかになりました! やはり鑑定に使った毛髪には細工が仕込まれていたことが判明したのです!」
ブライトナー医師の持つ最新の設備で分析を行なった結果、非常に精巧に作られた偽の毛髪であることが暴かれたとのことだった。
アーティットの話と合わせてすべての駒が出揃った。残すは一家を嵌めた男を捜し出して制裁を下すのみだ。周は上海で調査に奔走してくれている鐘崎親子と曹来、そして香港の家族にもすべてを報告――一挙に解決に向けて動き出すこととなった。
「上海に飛ぶ。きっちり幕を引いてやる――」
グラン・エーで待っているアーティットの母親・スーリャンも呼び寄せて、周らは一路上海へと向かったのだった。
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