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第4話
「ん?」
振り返ってみると、遠くから小原がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「ち、千早っ」
「おう。走ってきたのか? 汗すごいぞ」
鞄の中から下敷きを取り出して仰いでやると、多少はマシになったという顔をして、ふう、と息をついた。
「ごめん、遅れて」
「ん、いいよ。……っと、次のバス二分後。ギリセーフだな」
言って、にっと笑うと、小原も安堵したような微笑みを浮かべた。
待ち合わせ場所はバス停。告白した翌日から、千早は通学方法を自転車ではなくバスにかえた。理由は、小原がバスで通学しているからというのと、下校時に一緒にいられる時間が増えるからだ。それに、小原と路線が同じだと、帰りに家に誘いやすい。今日も小原には勉強を教えてくれと頼んである。
(ま、今日も今日とて口実ですよ)
またふて腐れたいような気分になりながら下敷きをしまうと、小原が振り返って呟く。
「あ、バス来たよ」
小原の陰からその方向を見ると、ちょうどバスが角を曲がって路地に入るところだった。そのまましばらくバスを眺めていた千早だったが、不意に目線を上げて小原の横顔を見る。まじまじと見れば、この顔は非常に人好きしやすい。でも、もったりとした前髪がたれ目気味で優しそうな目を隠してしまっているから、やはり野暮ったい印象がどうしても勝ってしまう。そんなことを考えながら、小原の前髪を触ったのは無意識だった。
「……なに?」
「んん。汗、もう引いたな」
内心どきりとしながら返すと、小原はうん、とだけ言ってまたバスに視線を移した。前髪に触れさせた指を下ろして、千早は握って貰えないであろうそれを、自分できつく握りしめた。
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