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第18話 ※
驚きと嬉しさで舞い上がった千早は、それ以上に濃厚なキスを小原にお返ししてやったが、まんまと返り討ちにあい、結局こらえきれなくなったのは千早が先だった。
「ん、ねえ……優吾」
息の荒くなった唇を触れあわせながら、吐息だけで呼びかける。小原は面白いくらい一気に茹で上がり、顔を真っ赤にした。
「で、でも、千早風邪ひいてるんじゃ」
「熱下がったし、大丈夫。……ていうか、自分からキスしといて何」
むくれて言うと、小原が赤くなったままきょろきょろと視線を動かす。
「いや、だってあの、えっと、こういう風になるとは、その」
「……俺とセックスすんの嫌い?」
やはり、男の裸など見たくないのだろうか。胸にまた小さく痛みが走って、千早が眉を下げると、小原が小さく唸り声をあげた。
「……ち、違う」
「うん?」
抱きついたまま、上目づかいに小原を見上げる。顔は真っ赤なままだが、視線だけはしっかりと千早を見つめていた。
「千早、病み上がりなのに……おれ、酷くしちゃうかも、しれないから」
言われて、腰に甘い刺激が走った。こんなことを言って、逆効果だと小原は気づかないのだろうか。
あんなに濃厚なキスをして、ただでさえ気持ちが通じ合って嬉しいというときに、こうやって腰を強く抱きしめられていたら、どうにかなってしまいそうだ。
「……ばか」
「へ?」
小原が間抜けな声を出す。赤らんだ頬のまま、それでも少しだけ元気な下半身に心が躍りながら、千早は小原の胸を叩いた。
「ばか、ばかばかばかっ」
「え、あ、ご、ごめんっ。ごめんって。しないよ、しないから!」
千早が嫌がっていると思ったのだろう、小原は必死に謝罪の言葉を述べる。しかし、千早は叩くのをやめない。
「ち、千早、痛いよっ」
「もう、本当にばか! ……そんなこと言われたら、もう、我慢できないだろ」
「え?」
掴まれた両手が熱い。どくどくと脈打つ心臓がうるさい。
まだ何も分かっていない小原にしびれを切らした千早は、自身の屹立を小原の腿に押し付けた。
「ち、千早!」
「酷くしていいよ。していいから……俺のこと、抱いて」
「な……っ」
今までの比でなく真っ赤になった小原は、一層強く千早の両手を握りしめる。そして、こらえきれないように低く唸り、千早を無理やり引っ張って、ベッドへと押し倒した。
「う、わ!」
ベッドのスプリングを軋ませて、小原が乗りあがってくる。馬乗りになった体制でブレザーを乱暴に脱ぎ、ネクタイを引っ張る。それが酷く色っぽかった。
「ごめん、がっつく」
「え、ゆう……ん、んん!」
一言だけ呟いた小原は、そのまま激しく唇を重ねてくる。千早は少し驚きながらもそれに応え、小原のシャツを強く握った。
お互いに下肢の衣服を寛げ、滾ったものを取り出す。そのまま重ね合わせ、テクニックも何もないまま、めちゃくちゃに擦った。
「んん、はあ、い……、んんっ」
「ん、気持ちい……?」
息を荒くして問いかける小原が、かっこよくて愛しくて、千早は夢中で口付けた。そのまま小原の口内を貪っていると、Tシャツに手を掛けられてたくし上げられる。
「ん、ん?」
「こっち、しても良い?」
「ひ、あっ」
問いかけと同時に触られたのは胸の突起で、赤く尖ったそれは少し弄られただけで、甘く疼いた。
千早はTシャツの裾を必死でまくり上げながら、空いた手で小原のペニスを擦り上げる。小原は熱の籠ったため息をつきながら、胸の突起を小さく噛んだ。
「い、あ! 噛んだら、だめっ」
「ん……何で? すごい、良さそう、なんだけど」
胸を刺激されると、下腹部に熱が溜まっていくようで、屹立がどんどん固くなる。小原はそれを分かっていて、口での愛撫をやめない。
「だめ、だめだって、優吾ぁ」
「……痛い?」
刺激に潤んだ目を、心配そうな小原が覗き込んでくる。ペニスに与えられていた刺激も、胸の突起を弄るのもやめて小原が体を離そうとしたので、千早は必死で肩にしがみついた。
「いいから、だめ」
「え?」
誘うような声が気恥ずかしい。でも、それで小原の下半身が力を増すのだから、羞恥などどうでも良かった。
小原の肩や首筋に何度も口付けて、強く抱きしめる。小原は困惑したように恐る恐る腰を抱いた。
「そんなにしたら、すぐ、いっちゃうから」
「ち、千早!」
小原の体温がかっと上がったのが分かった。それに気を良くしながら、今度は耳を噛んでやる。もうずっと前に見つけた小原の性感帯。そこをちろちろと舐めながら、千早はさらに呟いた。
「おしり、して?」
「……あああ、もう!」
小原がじれったいように叫んで、唇を重ねてくる。舌を入れたのは、小原が先だった。真面目ぶって優等生なくせに、小原は意外とキスが上手い。セックスも同様で、童貞だからと恥ずかしがった割には、初めての時も意外と熱心に攻め立ててくれたものだ。
(このむっつりめ)
内心、そう罵りながら、ペニスを弄る手は止めない。小原のものをさらに元気づかせながら、唇を離す。
「ん、ね……濡らすの、どこ?」
「脇の、引き出し……上から二番目」
小原が荒くなった息で問いかける。場所を指示しながら、千早は胸のあたりでぐちゃぐちゃになったTシャツを脱ぎ捨てた。
ローションとコンドームをベッドに放った小原も、シャツを脱ぎ捨てる。下から見ると、筋肉がうっすらと浮き出ているのが分かる。そのくぼみを指でなぞると、小原がくすぐったいように眉を上げた。
「優吾って、着やせするよな」
「そう? ……ほら、もう遊ぶのおしまい」
なんだか今日の小原はいつもより性急らしい。強い力で体を反転させられ、四つん這いになってあがった腰をすっと撫でられた。
「ん……優吾、今日は大胆」
「……千早がそうしたんでしょ」
誘ったのはそっちのくせに、と言われて、誘われてくれたのかと少し嬉しくなる。
ローションの蓋を開け、手に液体を絡み付かせる小原は、今日で三回目のくせに、妙に手際が良い。これも、秀才の成しえる技かと思うと、少し優越感に浸れる。
「なあんで優吾は、俺のこと好きって言ってくれんのかな」
「何、それ」
心の声が口に出てしまったらしい。手の中でローションを温めながら小原が聞き返し、千早はくすくすと笑いながらもう一度聞いた。
「こんなかっこよくて、頭も良くて、ヘタレで可愛い小原くんを、なあんで俺が手にできちゃうわけかなあ、とね」
「千早、からかってる? ……言ったでしょ、遊ぶの、おしまい」
「ん、あ!」
小原がそう言った途端、後ろに指が挿入される。一瞬の圧迫感のあと、徐々に感じるところを撫でられて、千早は甘い声をあげた。
「ああ、あ……だめ、そこ」
「嘘ばっかり」
ちょっとむっとしたように小原が呟いて、感じる場所を優しく撫でられる。その度に腰から全身に甘い痺れが走るようで、千早はシーツにしがみついて体をうねらせた。
「いあ、ああ、そこして、してっ」
「ん、ここ?」
「あああっ!」
ねだった場所を強く擦られる。いつの間にか指は三本になっていて、中でばらばらに動かされると一層快感が強くなる。淫猥に腰を揺らめかせながら、こらえきれずシーツに上体を預けると、小原が覆いかぶさるように耳元で囁いた。
「笑ってる、顔がさ」
「ん、え……ゆう、あ?」
「太陽みたいに明るくて、可愛くて、ずっと見てたんだ」
奥で指を器用に動かしながら、小原はさらに甘く囁く。
「クラスでも、すぐにみんなと仲良くなって、あの子は人気者なんだなあって、思ってた。ちょっとだけでも、話せないかなって」
「は、え……そんなこと、思ってたの」
「うん。……今考えたら、おれは千早のこと、入学してからずっと意識してたのかも」
ふふ、と微笑んで頬にキスをくれる。その笑顔が優しくて、かっこよくて、思えば自分もずっとこの笑顔に恋をしていたのだと思った。
気弱でヘタレだけど、それでも優しくて笑顔が素敵な小原。恥ずかしいからと逃げていただけで、自分のことを嫌いだなんて、一言も言わなかった。
(信じてあげられなかったのは、俺の方だ)
快感で滲んだ涙とは別のものが目頭を熱くして、千早は小原の指を含んだまま、体を反転させ、正面から抱きしめた。
「ん……っ」
「ちょっ、千早?」
焦ったように引き抜こうとした小原の指を締め付ける。洟を小さく啜りながら小原の眼鏡をとって口付けると、甘く唇が痺れた。
小原に触れたところすべてから、甘く心地よい刺激が走る。背中から首に手のひらを滑らせて強く抱きしめると、同じくらいの強さで小原が抱きしめ返してくれた。
「……優吾」
「うん?」
「好きだよ。俺も、優吾が好き」
やっと言えた、と息をつくと、小原が耳元で嬉しそうにうん、と頷いた。
濡れた奥から指を引き抜く合間、千早が丁寧にコンドームを取り出すと、小原がそれを受け取る。そして、千早の手を重ね合わせながら、ペニスに着けた。
自分から小原のペニスに蕾をあてがう。小原は少し驚いたように目を見張ったが、千早の赤い顔を見てごくりと生唾を飲んだ。
「入れて、い?」
「……こっちの台詞で、しょ」
小原が少しずつ中に進んできて、千早は必死に力を逃がす。息を吐いて、下腹部を優しく撫でる小原の手に両手を重ね合わせ、小さく啄むようなキスを繰り返す。
(あ、きた)
自然と力が抜けていって、小原がずるずると入り込む。体を開く方法はもう身についていて、忘れていなかったことに少しだけ安堵した。
「ん、ん……はい、た?」
「うん、もう……ちょっと」
腰だけの動きでじりじりと中にペニスを押し込めながら、小原が吐息交じりに言う。目を瞑って感じていると、奥に少しだけ掻痒感を感じ、下生えがつくほど深く入れられてしまったんだと思えば、屹立がまた硬度を上げた。
「はい、った」
言って、小原が肩口に顔を埋める。肩にかかる息は熱くて荒くて、奥に押し込められたものはどくどくと脈打っている。動きたいのをこらえていると知り、やはり小原は優しいと思った。
(酷くしてって、言ったのに)
どこまでも千早のことを考えて、千早の良いようにしてくれる。でも、ここまで我慢されては流石にじれったい。
必死で衝動を抑えようとする小原を抱きしめて、千早は腰を回し始めた。
「ちょ、ち、千早、なにしてっ」
「だ、て……優吾が、動かない、からっ。ひあ、あ、んん」
小原のペニスがびくりと跳ねると、感じるところを掠める。千早は甘く卑猥な声をあげながら、自分のできる限りで小原を誘った。
「あ、ねえ、してってばっ。酷く、して……?」
「ち、千早……! もう、知らないよ⁉」
「ああ、あああん!」
ぐっと背中に力を入れた小原が腰を前に押し進めて、もっと奥へと暴こうとする。いきなり訪れた激しい快感に、千早は目を見張って悶えた。
「んあ、あっ、あ、あ! つよ、い」
「千早が、しろって……言ったんでしょっ」
大きくて、長くて、硬いものが体の中を擦っていく。たったそれだけのことなのに、涙が出るほど気持ち良かった。
ぐちゃぐちゃと卑猥な水音が聞こえる。それほど激しく動いているのだと思うと、意識しなくても後ろが小原を締め付けた。
「ち、千早、そんなに締めない、で」
「やあ、できない……っ、きゅって、なっちゃ……!」
浅い息を繰り返すと、その吐息が鎖骨をくすぐるようで、小原は何かを堪えるような表情をして、ぐっと歯を食いしばった。
「う、くそっ」
「え、なにっ……や、ああああっ!」
いきなり腕を引っ張られて腰を浮かせられたかと思うと、体がまた反転する。上半身だけがシーツについて、尻を高く掲げるような体制に、まるで動物の交尾のようだと目の前が真っ赤になった。
「ひあ、ああっ、あああ!」
「後ろ、いい……?」
荒い息の狭間、小原が色っぽい声で尋ねる。千早はもうがくがくと頷くしかなくて、淫蕩な声を上げ続ける。
小原が内壁をぐりぐりと抉る。入っても、出ても、ずっと気持ちいいところを押されていて逃げ場がない。
「いい、い、いー……!」
小原が右手でシーツに擦れたペニスを包み、刺激する。左手は乳首をぐりぐりと刺激していて、千早はもう何が何だか分からなかった。
ただ快感に脳が支配されていた。
「いあ、ああ、あっあっあっあ!」
腰を送り込まれる度、途切れ途切れの声が上がる。あまりの快感に目の前が明滅して、千早は思わず目を強く瞑った。
「ああう、あんっ、おっき……優吾の、おっきいよぉっ」
視覚がシャットアウトされた分、小原のペニスをまじまじと意識してしまって、気づけばそんなことを口走っていた。小原は小さく舌打ちして、一層激しく腰を打ちつける。奥で、ペニスが膨れ上がったのが分かった。
小原の手が擦る自分のものが、びくびくと震えている。結合部からはもうすでにぐじゅぐじゅとした水音が絶えなくて、小原も濡らしているんだと分かった。
(だめ、だめだ。小原のが、中、こすれて……気持ち良い。俺、このまま、死んじゃいそう)
後ろから奥の奥まで暴かれて、どうにかなってしまいそうだ。長いストロークでがんがんと突き上げる小原は、息を上げながら、耳を噛んで言う。
「千早、だめだ、おれ……もう」
「ふあ、あ、ああっ! いく、いっちゃ……、ゆう、あっ」
途切れ途切れの息の中、どうにか限界を伝えると、小原が後ろから両手を重ね合わせてくる。
「んあ、あっあ、あああ! いい、いく、いくっ」
不安定になった状態で、律動がさらに激しさを増す。狂ったように、いく、いく、と叫び続けて、自分でも訳が分からないくらい腰を振った。
「ああん、い、ああ、あっ!」
「く、う……っ」
悲鳴のような声を上げて埒を開けると、小原も中の蠢動に引きずられるように精を放った。射精の最中も、ずっとぐいぐいと腰を押し付けてくるので、快感が引き伸ばされて、痙攣がなかなか収まらない。
くたり、とシーツに体を預けると、ペニスをずるりと引き抜いた小原が心配そうに覗き込んでくる。
「ち、千早、ごめんね。辛かった、よね」
「ん……いい」
まだぼんやりと甘怠い感覚に浸っていた千早は、とろりとした表情で呟く。それを見た小原はごくりと生唾を飲んで、そろそろと体を離した。
「……なに?」
「い、いや」
顔を真っ赤にして背を向ける小原を不審に思い、前を覗き込むと、そこには先ほど目にしたときよりさらに力を増した屹立があった。
「……これ」
「ご、ごめん。ちょっと、反省する」
しょんぼりと肩を下げた小原が、可愛い。そんな風にされてしまうと、恋人としては、どうにかしてやりたくなってしまう。
(どうせ、明日も休むつもりだったし)
まあいっか、と結論付けて、小原の頬にキスをする。また顔を赤くした小原に、あんなことまでしておいて、と思いながら、今度は唇にキスをした。
「ちはや……」
「足りない、よな? 俺も足りない」
まだ優吾が欲しい、と言いながら、今度は小原の上に乗り上げる。
困惑しながら赤面した真面目で意外と大胆な恋人は、焦ったように反論しながらも、結局は快楽に溺れていくのだ。
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