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第5話

「一太くん、考え直すなら今ですよ。今だ妻と離婚していない、囲っている愛人が何人もいる、大酒飲みの酔っぱらい、しかもママより16も年上の32歳のオッサンです。若くてイケメンでカタギのパパの方が断然いいと思いますが………」 「おぃ、橘。二歳の子供に言う台詞じゃねぇだろう」 「一太くんは普通の二歳児とは違います。今までたった一人でママを守ってきたんですよ。だから、ちゃんと分かってます」 一太は首を傾げて俺の顔を見詰めていた。 つくづく思うよ。きみは不思議な子だ。 「おじちゃん、ママちゅき?」 「あぁ」 「じゃあ、ママといちただったら?」 天使のような顔で悪魔のようなことを聞かれ、言葉に詰まってしまった。 ちょうどその時。ぽつぽつと雨が降ってきた。 「一太とデート中なんだ。てめぇ喧嘩を売ってんのか?」 空に向かって恨み節を口にすると、 「おじちゃんとらぶらぶ、めぇ‼」 一太も同じように空に向かって大きな声を上げていた。 「どこでそんな言葉覚えたんだ?」 「えっとぉ……わすれちゃった」 えへへと愛くるしい笑顔を振りまく一太。 「本降りになる前に帰りましょうか」 「おっそうだな」 橘に言われ急いで家に帰る事にした。でも一太は帰りたくないのかぶんぶんと首を横に振った。 「どうした?」 しゃがみこみ一太の顔を覗き込んだ。 「ちゃんと答えて欲しいのかも知れません。自分とママどっちが好きなのか。そうでしょう一太くん?」 「あと、はなしゃん」 「私………ですか?」 橘の肩がビクッと震えたのが分かった。 冷静沈着。滅多なことでは動揺しない橘が明らかに動揺していた。 まだ2歳のガキ。子供だからどうせ何も分からないととかなり油断をしていた。 一太は俺と橘の関係に気が付いていた。 思い当たる節はないはずなんだが……いや待てよ。 その瞬間、全身から血の気がさぁーと引いた。

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