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第2話
「へ?」
「付き合って欲しい。俺と。仁木が好きなんだ」
「……」
―何だって?…だって西野くん、女の子と…いつも……しかも、学校で1番モテて、それで生徒会長で首席でエースで……
一瞬何が何だか解らず混乱したが、でも、頷いた。
頷いてしまった、無意識で…
だって、ずっと……ずっとずっとずっと…
好きだったから――
貴臣と萃は付き合い始めた。
だが、何せ萃は付き合うは愚か、コミュ力0。
毎日変な汗をかき、相変わらず手からスマホが離せない。
目を合わすことも困難だ。
『まだ?校門とこにいる』
貴臣からのライン。
転がるように校門に急ぐ。
「ごごめん…!急いだんだけど」
ペコペコ謝る萃の頭にフワリと手を置く。
「……ッ」
遅い到着を怒られるとでも思っているのか、萃のビクついた上目遣いが…クる…
貴臣はさりげなく心臓に手をやり、収まれ……と念じ、強く掴む。
「ごめんなさい…古文の関根に呼ばれて…」
「ん?いいぞ?」
「だって…怒って…」
「ないない!何で!帰ろ!」
サッ……
後退りして身を固くする萃。
「あ…」
自分の行動に自分で驚き、挙動不審になった萃は何か言おうとして口を開いた。
「わり…だよな!公衆の面前だった!行こ行こ!」
女と付き合っている時は、いつも強請られて手を繋いだ。
付き合う→手繋ぎ歩行が身についている貴臣だが、流石に男同士だ、それはしていなかったのに、つい、あまりの可愛い仕草に、自分の恋人っ!という気持ちが前に出て、萃の手を取ってしまった。
萃に瞬間的に手を引かれ、我に還った。
―すごい逃げ方されたし。…ま、でも、そりゃ?外だから当たり前だ!凹むな俺!萃は付き合ってくれる、って言ったんだ!
頭の中で何とか自分を慰め励ましながら、貴臣はスタスタ歩く。
―西野くんッ…どうしよう…僕の、バカッ…馬鹿野郎!…驚いた、だけなんだッ…手を繋ぎたい…触って欲しい…何処にでも…
前をすごい勢いで歩く貴臣を小走りで追いかけ、あっと言う間にクリスマスソングが流れる商店街に入る。
―あ、仁木…?
思考に囚われ、暫し萃を忘れ猛然と歩いていたことに気付き、振り返る。
「ご、ごめんなさい…西野くん…」
息を切らした萃が、両手でスマホをギュッと握ったまま謝る。
「いいよ!俺が悪かった。外なのに忘れてた。何か…仁木が…何か可愛くてさ!つい…こっちこそごめん」
「そんな!こっちこそ!」
「いやいや、こっちこそ…」
2人は、こっちこそ、こっちこそ、と謝り合いをして…同時に吹き出した。
仁木が笑った!
どんだけ可愛いんだよっ、お前!!
踊り出したい程、貴臣の胸は高鳴る。
「な、仁木、クリスマス、飯行こうな!」
「クリスマス?」
「ああ、クリスマスイヴだよ!…恋人達のイヴ!」
「イヴ…」
萃が、ニッコリと笑った。
瞬間、2人の間に何とも言えない甘い風が吹いた…気がした…
「Merry Christmasは魔法の言葉なんだ」
萃が小さく呟く。
「魔法の言葉?」
「うん。Merry Christmasって言うと、誰でも笑顔になるんだ。自然に」
「Merry Christmas!……わ、マジだ」
その発音のせいか、言うのに少し力が入るせいか、何かちょっと戯けた感じになるせいか、言い終わると自然に口角が上がり、自分でも笑顔になっているのが判る。
「ね」
萃が頷く。
俯いてはいたが、その笑顔は貴臣が今まで見たこともない笑顔だった。
貴臣は、その笑顔を大切に胸に閉じ込め、萃と駅で別れると
「今からでもいけるかー??」
と呟きながら、スマホでクリスマスディナーを検索し、ちょっと予算オーバーだが『Le Frais』 のクリスマス特別コース《恋人たちの聖夜》を予約した。
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