2 / 4

第2話

「へ?」 「付き合って欲しい。俺と。仁木が好きなんだ」 「……」 ―何だって?…だって西野くん、女の子と…いつも……しかも、学校で1番モテて、それで生徒会長で首席でエースで…… 一瞬何が何だか解らず混乱したが、でも、頷いた。 頷いてしまった、無意識で… だって、ずっと……ずっとずっとずっと… 好きだったから―― 貴臣と萃は付き合い始めた。 だが、何せ萃は付き合うは愚か、コミュ力0。 毎日変な汗をかき、相変わらず手からスマホが離せない。 目を合わすことも困難だ。 『まだ?校門とこにいる』 貴臣からのライン。 転がるように校門に急ぐ。 「ごごめん…!急いだんだけど」 ペコペコ謝る萃の頭にフワリと手を置く。 「……ッ」 遅い到着を怒られるとでも思っているのか、萃のビクついた上目遣いが…クる… 貴臣はさりげなく心臓に手をやり、収まれ……と念じ、強く掴む。 「ごめんなさい…古文の関根に呼ばれて…」 「ん?いいぞ?」 「だって…怒って…」 「ないない!何で!帰ろ!」 サッ…… 後退りして身を固くする萃。 「あ…」 自分の行動に自分で驚き、挙動不審になった萃は何か言おうとして口を開いた。 「わり…だよな!公衆の面前だった!行こ行こ!」 女と付き合っている時は、いつも強請られて手を繋いだ。 付き合う→手繋ぎ歩行が身についている貴臣だが、流石に男同士だ、それはしていなかったのに、つい、あまりの可愛い仕草に、自分の恋人っ!という気持ちが前に出て、萃の手を取ってしまった。 萃に瞬間的に手を引かれ、我に還った。 ―すごい逃げ方されたし。…ま、でも、そりゃ?外だから当たり前だ!凹むな俺!萃は付き合ってくれる、って言ったんだ! 頭の中で何とか自分を慰め励ましながら、貴臣はスタスタ歩く。 ―西野くんッ…どうしよう…僕の、バカッ…馬鹿野郎!…驚いた、だけなんだッ…手を繋ぎたい…触って欲しい…何処にでも… 前をすごい勢いで歩く貴臣を小走りで追いかけ、あっと言う間にクリスマスソングが流れる商店街に入る。 ―あ、仁木…? 思考に囚われ、暫し萃を忘れ猛然と歩いていたことに気付き、振り返る。 「ご、ごめんなさい…西野くん…」 息を切らした萃が、両手でスマホをギュッと握ったまま謝る。 「いいよ!俺が悪かった。外なのに忘れてた。何か…仁木が…何か可愛くてさ!つい…こっちこそごめん」 「そんな!こっちこそ!」 「いやいや、こっちこそ…」 2人は、こっちこそ、こっちこそ、と謝り合いをして…同時に吹き出した。 仁木が笑った! どんだけ可愛いんだよっ、お前!! 踊り出したい程、貴臣の胸は高鳴る。 「な、仁木、クリスマス、飯行こうな!」 「クリスマス?」 「ああ、クリスマスイヴだよ!…恋人達のイヴ!」 「イヴ…」 萃が、ニッコリと笑った。 瞬間、2人の間に何とも言えない甘い風が吹いた…気がした… 「Merry Christmasは魔法の言葉なんだ」 萃が小さく呟く。 「魔法の言葉?」 「うん。Merry Christmasって言うと、誰でも笑顔になるんだ。自然に」 「Merry Christmas!……わ、マジだ」 その発音のせいか、言うのに少し力が入るせいか、何かちょっと戯けた感じになるせいか、言い終わると自然に口角が上がり、自分でも笑顔になっているのが判る。 「ね」 萃が頷く。 俯いてはいたが、その笑顔は貴臣が今まで見たこともない笑顔だった。 貴臣は、その笑顔を大切に胸に閉じ込め、萃と駅で別れると 「今からでもいけるかー??」 と呟きながら、スマホでクリスマスディナーを検索し、ちょっと予算オーバーだが『Le Frais』(ル・フレ)のクリスマス特別コース《恋人たちの聖夜》を予約した。

ともだちにシェアしよう!