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②
しばらくの間、感傷に浸っていたが
深呼吸し、よしっ、と気合いを入れ手を伸ばしす
そう、ほんのコンマ一秒
一瞬
刹那
それぐらいのあっという間の出来事だった
横から手が伸びたかと思えば
鷹が獲物を掻っ攫う姿を連想させるように鮮やかで、忽然と姿を消すレコードに、何が起こったのか理解するまでフリーズしていたと思う
「へ?え゙っ?‥‥無い…って、嘘だろ…
あ!ちょっ、そこ待て、待てやーッ」
俺が心の底から求めていたレコードを何食わぬ顔をして持っている奴がいる
「ちょ、お前ッ話し聞けよ」
すかさずその横取りした奴に食ってかかるが
まさかの無視
俺の声が聞こえていないんじゃないかと思うぐらい、まったく気にするそぶりもなく奴はレジに直行していく
迷いのない足取りを見て、焦りが募った
レジの店員にレコードを差し出したもんだから、いよいよ日本語が分からない奴なのかと焦りがピークに達する
「お、おい!これは俺が先に買おうとしていたやつだって、聞けって、会計も止めろって」
奴の横で抗議するものの
「ありがとーございましたー」
やる気のない店員の声が響き渡った
(嘘だろ‥‥)
それが合図だったかのようにやっと振り返った男は…
「ぁあ?何か言った?」
ニヤつく顔を張り付け、あっけらかんと言いやがった
俺より若干若い
左目の横に泣きぼくろがありその目も、口の端もキレイに上げて笑ってるが、俺には分かる
この笑顔はこちらを見下した笑みだって事を。
「っ、聞いてねぇのかよ!だから~~」
まだ話しをしている途中というのに、ズイッと俺の目の前に今さっき袋に入れられたレコードを見せびらかす
「あっ、これ?あんたが買おうとしてたんだろ?
需要と供給。生産者と消費者。販売と購入。意味分かる?あ~分かんねぇか?
俺が金を払い、物を貰ったの。これにて物品の売買が終了、一件落着!晴れて俺の物。という訳で諦めてね、さいなら~」
怒髪天を衝くとはまさにこの事
初対面でこんなに腹立つ奴に会ったのは初めてだった
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