14 / 110

爪先まで完璧なはずの武装が②

 久我の言っていることは正しい。頭でわかっていても、今までの自分を否定されたようで素直に認める事が出来なかった。 「あんたみたいな人気者には解んないよ。暖かい場所しか知らないくせに!」  叫ぶように言い放つと、玲旺は大通りに向かって歩き出した。 「どこへ行くんだ」 「タクシーで帰る」 「そうか。好きにしろ」  ドアを乱暴に閉める音がした後、エンジンが掛かかる。玲旺は振り返りたいのを我慢して、そのまま歩き続けた。  久我の運転する車が玲旺を追い越し、ウインカーを出したかと思うと、あっさり大通りの流れに乗って走り去っていく。視界から遠ざかっていく車を見て、玲旺は愕然とした。  心のどこかで、何だかんだ言っても久我は自分を置いて行かずに、引き留めてくれるだろうと甘く見ていたらしい。 「馬鹿みてぇ」   期待するから失望するのだ。解りきっている事なのに。  風が吹き抜けて桜の木を揺らす。散った花びらが足元に落ち、余計に侘しい気持ちになった。    仕方なくタクシーを停めようと手を挙げた時、スマホの呼び出し音が鳴り、懲りもせずに久我だったらと願ってしまった。  無情な表示画面を見て落胆する。  発信元は藤井だった。 『玲旺様、突然申し訳ありません。久我に電話をかけてもつながらないので、玲旺様にお電話差し上げました』 「何で久我につながんねーからって、俺んとこにかけて来るんだよ」 『一緒に外回り中だと伺ったものですから。急を要するので、玲旺様の連絡先を知らないかと営業部に泣きつかれまして。トラブル発生だそうです。それで、今久我は運転中か何かで?』  まさか置き去りにされたという訳にもいかず、玲旺は「そうだけど」と口ごもりながら答える。 『でしたら、すぐに羽田空港へ向かうようにお伝え願えますか。フォーチュンの人気商品が大量に輸入されたらしいのですが、税関で真贋を確かめてほしいとの事です』 「真贋を?」 『ええ、良く出来たコピー商品の可能性もあるので、鑑定してほしいと』  通話を終えた玲旺は、捕まえたタクシーの後部座席へ身を滑り込ませる。羽田の国際線へ向かうように告げると、目を閉じた。  自社商品の偽物かどうかなんて、俺にだってきっと解る。ちゃんと仕事できるってこと、久我に証明して鼻をあかしてやろう。 ――そうしたら、許してくれるかな。    瞼の裏に浮かんだ久我の驚く顔に、玲旺は口の端を上げた。

ともだちにシェアしよう!