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*第6話* 現実は生々しい
「これなのですが」
言いながら空港職員が段ボールを勢いよく机に置いた。かなりの重量があるようで、会議用テーブルが衝撃で揺れる。中には人気商品である、繊細な花刺繍が施されたチュールスカートがぎっしりと詰め込まれていた。その一枚を手に取って、玲旺は眉間に皺を寄せる。
「何でウチの商品が海外から輸入されたんです?」
玲旺が質問すると、商品を受け取るはずだった業者はほとほと参ったように頭を掻いた。
「海外のショップがフォーチュンの人気商品を買い占めたけど、捌ききれないから安く譲ってくれると言う話で……」
一見すると本物のように見えたが、心なしか刺繍が雑なようにも感じられた。しかし決定的にどこかが駄目という訳でもなく、判断に悩む。
話を聞く限り胡散臭いし、だったら送り返してしまえば良いと考え浮かんだが、人気の品薄商品で今が売り時なのは玲旺も知っていた。
万が一、本物だった場合このタイムロスは非常に痛く、時期がズレればもう売れなくなる。
社に持ち帰って確認したいところだが、偽物の可能性があるものを空港の外に持ち出すことは出来なかった。
だからこそ、営業部はこの状況でも的確な判断が下せる、久我に頼ろうとしたのだ。経験不足の新入社員などお呼びではない。そんなことに気付いても、もう後の祭りだ。
「どうでしょう?」
職員に問われても、玲旺は答えられずに固まった。スカートを手に取ったまま唇を噛みしめる。職員の視線が刺さり、冷や汗が額に滲んだ。
「本物ですよね? 本物でしょう?」
仕入れてしまった業者が必死に訴える。これが偽物だったら大損で、死活問題なのだろう。
玲旺の肩に責任がズシリとのしかかった。
偽物のような気がする。けれど、それを口に出来るほどの自信がない。
この場に来るまでは、久我に一泡吹かせる事だけを考えていた。
だけど現実はそれどころではないと思い知る。業者の悲壮感漂う目と息遣いが玲旺を追い詰め、生活が懸かっているという生々しさを肌で感じて怖くなった。
適当に本物だと言ってしまえば楽になれるが、結果次第ではフォーチュンを貶める事になる。偽物が世に出回ることだけは避けたい。
この場に意気揚々と一人で乗り込んでしまった自分の浅はかさに眩暈がした。
静まり返った部屋で、玲旺が口を開く。
「すみません。自分では判断しかねるので、上司を呼びます」
指先も声も震えていた。啖呵を切ってしまった手前バツが悪いが、久我に頭を下げよう。意地を張っている場合ではない。そう思ってスマホを取り出し、藤井に聞いておいた久我の番号をタップする。しかし呼び出し音が虚しく鳴り続けるだけで、一向に出る気配がなかった。
「頼む、出てくれよ……」
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