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弟の仮面を被ろう②

「ヘンな意味じゃなくてさ。お前に仕事教えるの楽しいんだ。でも、何かこう……部下って言うより、やっぱり手のかかる弟って感じがするんだよなぁ。だから二人の時に敬語だと調子狂う」 「手のかかる弟……」  そんな事ないでしょう。と言い返したい所だったが、出会ったばかりの頃を思い出すと全くその通りで反論できない。そんな心を見透かしたように、久我が笑いながら玲旺の肩を叩く。 「でも最近は成長が目覚ましいな。今日も挑発に乗らずによく耐えた。反論も立派だったし、桜華大の契約もお手柄だったぞ」 「俺、ちゃんと戦力になれた? 桜華大の制服でも、売り上げに貢献できる?」 「もちろん。制服を扱うのは初めてだが、毎年確実な売り上げが見込めるのは有難いな。まぁ、百貨店との契約に比べると、手間がかかる割に売り上げは劣るかもしれないけど」  久我の言葉に、玲旺はガクンと脱力してうなだれる。クスクス笑いながら、久我が慰めるように玲旺の頭を撫でた。 「だけどな、天下の桜華大付属高校の制服だぞ。そこの生徒たちが着てくれることで生まれる宣伝効果は計り知れない。登下校中に人の目にも触れるし、業界も注目するだろう。何より、未来のファッション業界を担う生徒たちが、うちの服に馴染みを持ってくれるのは嬉しいじゃないか」  久我は目を細めながら、玲旺の髪をゆっくりとすくい上げるように梳かす。先程は耐えきれずに突き放してしまったが、もうこの鳴りやまない心臓の理由を認めた方が良い気がしてきた。ずっとこうして髪を撫でていて欲しい。この暖かさを手放したくない。すがり付きたい衝動を抑えながら久我を見上げる。  胸の奥が甘く疼いた。チラチラと小さな灯が揺れているような、なんとも言えないもどかしさに包まれる。 ――男とか女とか関係なく、久我が欲しい。  いっその事、もっと距離を詰めてみようか。唇が触れそうなくらい近くに。そうしたら久我はどんな顔をするのだろう。驚くだろうか。拒むのだろうか。  うんと困らせて、その思考の全てを自分だけで埋めてみたい。そう思ったら居てもたってもいられず、玲旺は思い切って口を開いた。 「久我さん、俺……」  瞬間、久我の表情が強張ったような気がした。

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