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父親からの電話③

「玲旺様に正面から向き合ったのは、(かなめ)くらいなもんだよ。まぁ、本気で叱って車に乗せずに置き去りにしたと聞いたときは、肝が冷えたがな。玲旺様は繊細なんだ、雑に扱うなよ」  久我と話している相手は藤井だった。玲旺は藤井が久我を「要」と呼んだことに動揺した。年齢的に二人は同期の可能性がある。しかし、ただの同期という理由だけで、下の名前を呼んだりするのだろうか。 「真一は心配性なんだよ。桐ケ谷はお前が思っているより弱くないぞ。芯がある」  今度は久我が藤井の名を呼んだ。久我と出会ってまだほんの数か月だが、その間に久我が苗字以外で誰かを呼ぶのを初めて聞いた。  玲旺は柱の陰から出て、気付かれないように二人の表情をそっと盗み見る。  缶コーヒーを片手に屈託なく笑う久我は、まるで無防備に見えた。藤井の方もいつもの生真面目さは消えて、肩の力を抜いている。  対等なんだな。と、玲旺は唇を噛んだ。  お互い実力を認め合い、背中を預けて一緒に戦える仲間と言った雰囲気がある。  玲旺に見せる二人の顔は保護者や上司で、いつもどこか緊張感があった。とことん自分は守られる存在でしかないのだと思い知る。  久我に追いつくと息巻いていたが、まだまだ距離は遠い。 「しかし、要は最近玲旺様の話ばかりだな。余程気に入ったのか」 「いつも一生懸命なんだ。可愛いくて仕方ないよ。何でもしてやりたくなる」 「手厚く面倒を見てもらえるのは有難いが、誤解されるような行動は慎めよ。変な噂が立つと困る」  藤井が牽制するような視線を送ると、久我はくくっと短く笑った。 「妬くなって。ただの弟だよ。それ以上の感情はないから心配するな」  覚悟していたつもりだが、改めて久我の口からその事実を聞いて玲旺の目の前が暗くなる。  ただの弟。それ以上の感情はない。  そもそも、なんなんだ今のやり取りは。  もしかして、二人は付き合っているのか? 藤井がヤキモチを妬いて、久我が安心させるために放った一言なのだろうか。  勝手な妄想だと半分解っていながら、笑い飛ばせない自分がいた。二人が戦友でも恋人同士でも、どちらにせよ玲旺の立ち入る隙間は一ミリもなさそうだ。  全身の力が抜ける。今まで必死にしてきた努力が、何だか無意味なものに思えてきた。仕事を覚えるのは自分のためと重々承知していたが、結局久我に認められたいと言う思いの方が強かったらしい。

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