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父親からの電話④
色々なものにガッカリしながら、玲旺は数歩来た道を戻った後、今初めて二人の存在に気付いたような顔をして休憩スペースに足を踏み入れた。
「あれ、珍しい組み合わせですね。二人とも仲良かったんですか」
白々しくないだろうか。上手く笑えているだろうか。そんな事を考えながら、笑顔を張り付けて二人の元へ寄る。
「ああ。藤井とは同期で、大学から一緒なんだ。お前の情報提供してくれたのはコイツだよ」
そう言われて、初めて営業部に連れてこられた時、久我が玲旺の経歴書を見ていたことを思い出す。確かにあの時「同期に情報提供して貰った」と言っていた。それが藤井だったのかと、納得しながら頷いた。
「玲旺様、ご安心くださいませ。久我に渡したものは、履歴書に書くような一般的な範囲の情報ですよ。プライベートまでは漏洩しておりません」
「会社では『様』は付けんなって言ったろ。一般的な範囲ねぇ。本当にそれだけか?」
ジロリと睨むと、藤井は「もちろんです」と怯まずニッコリ笑う。
父親の筆頭秘書である藤井は、玲旺の面倒までよく見てくれていた。留学中、欲しいものは藤井に頼めば直ぐに手配してくれたし、愚痴も聞いてくれるので重宝したものだ。藤井なら、玲旺の嗜好や性格を細かく分析できる。その情報を元に、久我が気難しい玲旺を攻略したのだとしたら、少し面白くない。
「こら、桐ケ谷。お前も敬語を忘れているぞ」
久我に窘 められて、玲旺は目を伏せた。
「……申し訳ありませんでした。では、仕事を残しているので戻りますね」
失礼します。と告げてその場を立ち去る。
面白くない。面白くない。
久我が今まで自分の為にしてくれたことが、計算だったのではないかと思えて苦しくなる。
空港からの帰り道、車の中で渡された缶コーヒーが苦かった。その様子を見て、「甘いものが好きなんだっけ」と久我は言ったのだ。
きっと藤井から情報を得ていたのだろう。
何もかもどうでもいい気分になって、玲旺は適当な席に腰を掛けると大きくため息を吐いた。斜め後ろに座っていた吉田が、キャスター付きの椅子を滑らせて玲旺の隣に並ぶ。
「どうしたの? なんか疲れてるみたい」
机に突っ伏した玲旺は「うん。ちょっと疲れた」と、顔を上げないまま答える。
「そっか。ずっと頑張ってきたからなぁ。今度息抜きしようね」
カサッと何か置かれる小さな音がした。吉田はそれ以上何も聞かず席に戻っていく。少し顔を浮かせると、机の上に置かれた飴玉が見えた。
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