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俺の役割って、何③

 玲旺の精を飲み込んだ久我の喉が鳴り、力尽きたように廊下に寝ころがる。暗い廊下に二人の息遣いだけが響いた。玲旺は涙目のまま、脱ぎ散らかした下着とスラックスをたぐり寄せる。 「……ねぇ、見合い、本当に行くの?」  廊下に突っ伏したまま、久我が問う。 「行ってほしくないの? なら、行くなって言えばいいじゃん」  掠れた声で、玲旺が答えた。 「お前……見合いするとか常務になったらとか、そのうえ吉田を秘書課に引っ張るって、どんだけ俺を煽る気なの? 『行くなって言えばいい』? 言えるわけないだろ。俺にそんな資格はないんだから」  苛立つ久我の声を聞きながら、玲旺は服を着る。指先が震えて上手くベルトが締められないのは、きっとまだ酒が残っているせいだ。こんな事をされて傷ついてるからじゃないと、自分に言い聞かせる。 「資格って、なんの資格だよ。見合いを止めるのに資格がいるわけ?」  玲旺は久我に背を向けて、玄関のドアノブに手を掛けた。  ただ一言、「お前が好きだから行くな」と引き留めてくれたらいいのに。  そうしたら今すぐ振り返って「もう一度、ちゃんと抱いてくれ」と応えるのに。 ――酔っていて勃たないなんて嘘だ。久我はしっかり反応していた。それでも口淫に留めた理由は何だろう。 「俺に求めていた役割って弟じゃなかったの? 今まで距離を詰めようとすると遠ざけられてたのは何だったんだよ。俺はどうすればいいわけ?」  いくら待っても久我の口から玲旺の望む答えを得ることは出来なかった。 「もういい、じゃあね。次会う時は、可愛い弟の顔で接してやるよ。ホント、土日があって良かった。流石に明日は会いたくないや」  ドアを押して外に出る。 「ごめん」  久我の声を背で聞いた。  それ、なんのごめん?   声に出さずに飲み込んだ。

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