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傷に沁みるほどの快晴②

 外に出ると失恋したての身に沁みるほどの快晴で、なんだか余計に悔しくなる。  行く当てもないまま歩いているうちに、氷雨にまだ挨拶していなかったことを思い出した。ここから神南の店まで歩いて行ける距離だが、仕事中に押し掛けるのも気が引けた。  一先ず電話だけでもと思い店にかけると、氷雨は休みだと告げられ、仕方なく海外赴任の件を言付けして通話を切る。  井の頭線の線路沿いをふらふらと歩きながら、玲旺は長い睫毛を伏せた。久我を諦めたはずなのに、まだ胸が痛む。一昨日も大人しく引き下がろうと、途中までは思っていたのに。  昔の恋人を目の当たりにし、その上そいつのせいで、まるで玲旺の気持ちまで「一時の気の迷い」のように言われてムキになってしまった。未来は不確かなものだとしても、今の想いまで否定されたくない。  ただ、残念ながらその問題をクリアしても、今の自分に納得できない久我には、結局受け入れて貰えなかったわけだが。  久我は会いに行くとは約束してくれなかった。それどころか、考えてみれば「好き」とすら言って貰ったことが無い。  地面にめり込みそうなほど足が重くなって、もう帰ろうかと思い始めた頃、デニムのポケットでスマホが鳴った。表示された番号は知らないものだったが、急ぎの要件かもしれないと恐る恐る応答をタップする。 『桐ケ谷クン! 今どこにいる?』  氷雨の甲高い声が聞こえ、思わずスマホを耳から離した。 「何で氷雨さんが俺の番号知ってんの?」 『あのねぇ……店に電話かけたでしょ』  呆れたような声が返ってきて、なるほど履歴が残るのかと納得した。 「今どこって言われても、散歩中でただブラブラしてただけだから……」  辺りを見回し、大体の住所と目に入った歯科医院の名前を告げると、氷雨は興奮したように『マジで! 近所じゃん』と叫んだ。 『そのまま駅前に出て。そしたら左に曲がってしばらく進むと、ロジーリリーってカフェがあるから。僕が行くまで絶対そこで待っててよ!』  ブツッと電話は切れてしまい、「えぇ」と困惑しながらも玲旺は言われた通りに進んでロジーリリーの看板を見つけた。雰囲気の良いフレンチカントリー風の店内で、コンクリート打ちっぱなしの床にターコイズブルーの木製カウンターがよく映えていた。レジ横のショーケースには、手作りのマフィンとクッキーが並んでいる。玲旺はカウンターでアイスティーとはちみつ檸檬マフィンを注文すると、入り口近くのカウンター席に腰を下ろした。  ここなら氷雨が来たら直ぐに気付けるだろうと、外を見ながらアイスティーに口を付ける。  マフィンを食べ終わってもまだ氷雨が来ないので、「遅い」と文句を言うために電話をかけた。ところが電話に気を取られている隙に隣の席に黒髪の男性が座ってしまい、玲旺は慌てる。 「すみません、ここ、後から人が来るんで……」  アイスコーヒーのストローを咥えた男性の唇が、ニッと笑みの形に変わった。

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