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生まれ変わったんだってば③
「ありがとう。そう言ってもらえると、ちょっと気が楽。今回は迷惑かけないように生活するね。身の回りの事は自分でやるし、飯も自分で調達する。あと、俺が働く店には俺の素性伏せてもらっていい? 気を使われるの嫌だから」
瑠璃が戸惑いながら玲旺の背中に手を添えた。玲旺の変わり様に、喜びよりも案じる気持ちの方が強くなったらしい。
「玲旺くんの素性を明かさないのは構わないけど、でも……日本で何があったの? 無理しちゃ駄目よ。あんまり慣れない事したら、体を壊しちゃう」
「それ、藤井にも言われたな。まぁ取り敢えず、徐々に慣れるように頑張るよ。さてと、じゃあ荷物片づけてくる」
立ち上がった玲旺を、瑠璃は気遣わしそうな目で見上げた。心配ないよと笑って見せたが、瑠璃は眉を寄せたままだ。
「玲旺くんだってもう立派な大人なんだ。任せて大丈夫だよ」
博之に再び援護して貰い、玲旺は何度も頷く。「でも、ご飯は一緒に食べたいな」と拗ねて口をとがらせる瑠璃に、「時間が合えばね」と玲旺は苦笑いした。まだ手のかかる問題児だと思われているのも確かだが、急に弟離れを迫られて、戸惑っているようにも見える。
玲旺はそそくさとリビングを後にして自室に向かった。大学に通っていた間、ここで姉夫婦に世話になっていたので勝手は知っている。
部屋には既に大き目の段ボールが三つ届いていたが、そのどれにも手を付けず、玲旺はここまで自分で運んで来たスーツケースを開いた。
真っ先に取り出したのは久我から借りたままのワイシャツで、皴を伸ばすように撫でたあとハンガーにかける。クローゼットの扉に手を伸ばしたが、「しまい込むより、いつでも眺めていたいな」と思い直し、壁掛けのフックにハンガーを吊るした。
丁度見上げるような位置にシャツがあって、「久我さん……」と、堪え切れず想いが声になって漏れる。
気を紛らわせるために窓を開け、少しだけひんやりした空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
姉夫婦の住居はパーパスビルトフラットと言って、日本で言うところのマンションのようなものだった。ロンドンの中心部へも地下鉄で十分という、抜群の好立地にある。それでいて治安は良く、緑の多い閑静なこのエリアは、日本人の駐在員にも人気が高い。
「瑠璃があんなに心配性だなんて知らなかったな」
つい半年前までは、確かに瑠璃に身の回りの世話をあれこれ焼いてもらっていた。今では甘え過ぎていたことを反省しているが、瑠璃にしてみれば弟が見える範囲にいてくれる方が、何かと安心だったのかもしれない。
密かに一人暮らしも視野に入れていたが、今そんな事を言い出したら卒倒されそうだ。
「とりあえず、信頼を得るとこから始めてみるか」
気合を入れるように腕まくりをしながら窓辺を離れ、梱包された段ボールに手を伸ばした。
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