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郷愁②

 玲旺はレジの打ち方を脳内シミュレーションしつつ、店内の内装やノアの動きを観察しながら過ごした。  長い手足に少し赤味を帯びた茶色い髪、緑色の瞳。年の頃は二十代半ばと言ったところか。困っていそうな客にだけスッと近づき、必要な事だけアドバイスするノアの動きは洗練されていた。さすが英国紳士だなあと感心しながらノアを目で追う。  暫くすると、ようやく第一号の客が会計に訪れた。  品の良い婦人は、緊張気味にクレジットカードを受け取る玲旺を見て、「高校生かしら? 頑張ってね」と微笑ましそうに見守る。 「あー……。こう見えても実は二十二歳でして。今日からこの店で働くことになりました。今後ともよろしくお願いします」 「あら、ごめんなさい。東洋人は若く見えるって本当ね」  婦人は驚きながら商品を受け取り、颯爽と店を後にした。高校生に間違えられては、流石に少しがっくり来る。 「レオって大学生? 俺、キミと同い年の日本人の友達がいるよ。ファウンデーションコースに一年通った後に大学へ行ったから、今年やっと卒業だって」 「ああ、じゃあその人は大学から留学したのかな。それって、大学で授業を受けられる英語力と学習スキルを身に着ける準備講座みたいなやつですよね」 「レオは違うの?」 「俺は十歳でプレップ・スクールに入った後、シニアスクールに進んだので、大学は三年で卒業しました」  それを聞いたノアは腑に落ちたように頷いた。 「だからか、綺麗な英語だなって思ったんだよね。それにキミ、品があるし。まさか通っていたパブリックスクールは、ザ・ナイン?」 「いや、流石にそれこそ『まさか』ですよ」  玲旺は畏れ多くて首を横にぶんぶん振った。

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