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*第27話* 絶賛修行中
グレースに勤めるようになって、忙しくも充実した日々が続いていた。
レジを覚えると今度は試着室の案内や返品などの対応。その次は売上管理に商品の仕入れなど、こなす業務は多岐に渡り、目まぐるしくて時間があっという間に過ぎて行く。
そうして気付けば秋はとっくに終わりを告げ、道行く人は厚手のコートを身に纏い、すっかり冬の装いだ。
「まだ十七時なのに、もうこんなに暗いや」
窓の外と腕時計を見比べながら、玲旺が呟く。
十二月のロンドンは夕方にもかかわらず、完全に日は落ち、夜のような暗さだった。
「レオ、納品されたアイテムの検品は済んだ?」
「はい、いま終わったところです。あと、タグも付けておきました」
「ああ、助かるよ。丁度タグを頼もうと思っていたんだ、ありがとう。そろそろ時間だし、少し早いけど今日はもう上っていいよ」
店長が笑顔で肩をたたく。
グレースのテナントは、店員が三人もいれば十分に顧客に目が行き届く程度の広さだった。その代わり内装にはこだわっていて、クラシックな赤いダマスク模様の壁紙に、スワロフスキークリスタルを使用した豪華なシャンデリアが貴族の館を彷彿とさせる。
クリスマス仕様に飾り付けられた店内は、より一層華やかだった。
棚の商品を畳んでいたノアが、玲旺に気付いて顔を上げる。
「お疲れ様。気を付けて帰ってね」
「うん。また明日」
「あ、そうだ。レオって年越しの予定決まってる?」
急に尋ねられ、玲旺は歩きかけていた足を止めた。
「姉夫婦と過ごすつもりだけど……」
正直に答えた後、もし特別な意味を込めて誘われたらどうしようかと一瞬不安がよぎる。
「そっか。もし良かったらさ、友達がカフェを貸し切ってカウントダウンパーティーするんだけど一緒に行かない? オーリーも来るよ。フィンにも声かけてある」
オーリーもフィンも、グレースで一緒に働く同僚だ。自分だけが誘われた訳ではないことにホッとしながら、玲旺は「行こうかな」と返事した。
別に今までノアに色目を使われたことはないし、気のあるような素振りも一切ないのだから、自意識過剰だったなと玲旺は独り首をすくめる。心の中で「変に疑ってゴメン」と謝りながら、手を振ってその場を後にした。
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