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昼食を食べ終えて、俺は藏元と一緒に教室を出る。 なんとなく予想はしていたけど、周囲の注目が凄い。転校生という注目ワードを掲げているとはいえ、それ以上の注目がある。それは他ならぬ藏元が、注目を集めるイケメン様だから。 でもよく考えてみろ。 全寮制の男子校に、イケメン男子が来て何をそんなに喜んでる。絶世の美女が来たならまだしも、自分と同じ男で顔は自分より整っているんだぞ。生まれを恨むか、転校生はあんなやつかーくらいが妥当じゃないか。 傍を通りすぎた生徒たちは「かっこいい」とか「近づきたい」とか黄色い事ばかり言っている。 最早この学校の生徒は感覚が違う。俺は半ば呆れた顔でその中を進んでいく。 でも、俺に周囲の声が聞こえているということは後ろを歩く藏元にも同様に聞こえているのだろう。 どう感じているのだろうと思っていれば、歩幅を揃えて横に詰めてきた藏元が小声で囁いてきた。 「な、なんか……どう捉えていいのか分からない声があるんだけど」 だよね。そうなるよね。……どうせ後々分かることだし、今説明した方が面倒にならずに済むか? 「…………あー藏元、俺女の子好きなんだよね」 「え?」 「藏元は?」 「……うん、そうだね」 「ちょっと込み入ったこと聞くけどさ、もしかして、結構女の子と遊んでた?」 「嫌な言い方だなぁ~。結構真剣に付き合ってたよ。転校のタイミングで別れちゃったけど……」 てことは、前の学校も普通の学校だったってことだよね。そりゃここに慣れるまで難儀するだろうよ。しかもこの顔面だ。可哀想に。 「……なんか、憐れんでる?」 「よく分かったね」 「うん……てか、隠す気も無かったでしょ」 「ない」 困惑して、視線を周囲に向けてはすぐに俺に向ける藏元に、とてつもなく同情してしまう。 「……あのね藏元。ここで過ごしてたらどの道すぐ気づくと思うからはっきり言うけどさ、…….ここの生徒の8割……8.5割がホモ、ゲイ、バイ、なのよ」 「…………わぉ」 歩きながら小声で伝えると、これまた小声でリアクションが返ってきた。そういう判断ができるところ、素晴らしいと思うよ。 周囲は藏元に意識がいっちゃってる為か、俺たちの会話の内容までは聞かれていない。やたらと盛り上がっててこんな小さい会話聞こえないだろう。 「まぁ、思春期真っ盛りでこの環境だもんね。なる人はなるんだよねー」 「……ぇ、と……じゃあ」 「藏元は顔とか、容姿が良いからこんな見られてるんだよ。言われてることもそういう内容だよ。」 考えている藏元は、何か思うところでもあるのだろう。さっきまでいた教室の、取り巻きのクラスメイトに何か言われたか? 「……成崎は、女の子だけ?だよね……?」 「俺は完全なるノンケだから」 「のんけ?」 「俺みたいな、恋愛対象は女の子、のことを“ノンケ”というんだと」 「へぇ……全然分からない」 眉間に皺を寄せる藏元に、俺も入学して数ヵ月の頃を思い出す。 そっち方面(所謂BLというやつ)に詳しい生徒から1から色々学んだが、まさしく未知の世界だった。別に興味があったわけじゃないが、何せここは全寮制だ。自分が今いる世界を知らねば、生きてはいけない。殆ど義務的に学ばざるを得なかった。 「じゃあ後でそこら辺詳しい人紹介するからその人に色々聞いて」 「え!?……成崎が教えてくれるんじゃないの?」 「多分、藏元は俺以上に色々知っておいた方がいいからその人から聞いた方がいいと思う。……藏元の身の安全のためにも」 「怖いよ、何、何が待ってんの??」 「はい取り敢えず1階から案内するよー」 「ちょ、成崎っ」 色々話ながらも到着した学校の1階。 食堂や保健室や進路指導室、図書室、多目的室、情報処理室等々の公共施設を案内していく。 「で、2階が1、2年の教室でー。3階が3年の教室と職員室、あと音楽室、美術室、書道室、茶道室、とかの科目室があるよー。科目室は移動授業とかで行くだろうからその時覚えれば大丈夫」 「うん……職員室は今朝行ったから分かるし……他も何と無く分かったとして、」 「じゃあ次、外の施設なー」 「成崎、俺はその、どうしたら」 藏元は明らかに困惑してる。校内案内に、じゃない。周りから送られる、一向に止まない視線に、だ。でもそんな初歩で怯んでいてはこの先やっていけない。 だから耐えろ藏元。そう思って無理矢理校内案内を続けていた俺は、周囲の異変に気付く。

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