11 / 321

11

「藏元、ちょっといいか」 放課後、思えば昨日寮で別れてから今日初めて話した気がする。……まぁ、いい傾向だ。 席に座ったまま鞄に荷物を仕舞い、帰り支度をしていた藏元は俺の呼び掛けに顔をあげた。 「うん、何?」 「これから時間ある?」 「うん……大丈夫だよ?」 「小竹ぇ」 藏元にちゃんと時間があることを確認し、俺は教室の扉のすぐ外で待っていた生徒を呼び入れる。 黒縁メガネ、整えられた見た目、外見の印象から言ってしまえば、“理系”って言葉に尽きる。 「こいつ、C組の小竹」 「ぁ、えっと、俺はくら」 「知ってる。噂は届いてる」 ハッキリキッパリ言い切ってくる小竹に、少し戸惑いつつも藏元らしく微笑んだ。 「……そうなんだ…………成崎、えっと……?」 「こいつが、昨日話してたそっち方面詳しい人。」 「!!」 ぁ藏元の顔が変わった。でもビビった感じじゃないから大丈夫かな。どちらかと言うと、緊張と驚き?……見た目が理系くんですからね。想像できなかったよね多分。 「成崎の言う通り、藏元はヤバイかもな」 「だろー。ノンケの俺ですら、藏元に危機感感じたし」 「俺からすれば王道だが……」 「いやその王道?とかは知らないけど……」 何の事か分からず首を傾げていると、ガシッと肩を掴まれて、何かを切望するような眼差しを小竹は俺に向けてくる。 「お前が要なんだよ成崎。俺はお前が一番」 「俺はいいの。何期待してるか知らんけど俺はもう充分なのでぇ」 「勿体ない……」 ボソッと呟く小竹に、少し寒気を感じたのは気のせいにする。 「じゃあ小竹、お願いね」 「……おう」 「ぇ俺一人!?」 「俺もいたら恥ずかしくて聞けない事もあるかもじゃん?」 「な、成崎~!」 「頑張れ!」 無理にでも飛び込まなきゃいけない未知の世界を前に、藏元は弱々しい声を上げる。 が、俺にはこれ以外どうしてやることもできない。 普通なら羨むところなんだろうけど、今回ばかりはイケメンに生まれてきたお前が悪い。 なんて思いながら教室を後にした。

ともだちにシェアしよう!