13 / 321
13
最後の1組を整え終えて、出来上がった冊子の山。これを今度は用意していた簡易箱に仕舞う。これで教室に持っていけば完璧だとひとり頷く俺。
そんななか、多目的室に再び人が入ってきた。
「戻ってきー、じゃない間違えた」
5分前に飛び出していった藏元が、てっきり戻ってきたのかと勘違いした俺は言いかけた言葉を途中で否定した。
「戻る?」
「あーいえ、なんでもないっす。人違いでした」
入ってきたのは珍しい人物……な筈なんだけど、会うのは本日2回目だ。それも珍しい。
「誰かといたのか?」
「いたっていうか……来ていなくなったっていうか……よく分かんないです」
ははっと笑った俺の傍に来て、俺の手元に視線を落とす。いつ見ても、かっこいい顔してんなー。
「このプリント……、結局成崎の仕事だったのか。あの先生は成崎に頼りすぎだろ」
「仕事って……雑用みたいなもんですよ。俺も得したことあるし……。で、宮代さんは?なんでここに?」
「あぁ、おれは生徒会のものを片付けたくて……鍵を借りに行ったら、成崎が既に使ってるって鈴木先生に言われてさ」
「無駄足させました、すいません……」
「それは別にいいよ」
「でも、なんで生徒会のをここで?生徒会室は?」
「……東舘と、千田、髙橋に使わせてる」
宮代さんの眉間に、少し皺が寄った。あ、余計なこと聞いた。どうしよう。
「……た、大変ですね、相変わらず……。あー俺はもう終わったんで、あと自由にここ使ってもらえれば」
「……成崎、お前も相変わらずだな」
呆れたように言われて、俺は何がと首を傾げて宮代さんを見上げる。
「はい、……?」
「すぐ気を遣うところなんか全然変わってない。……大丈夫だよ。成崎がいて迷惑なんて思ってないから。むしろ、成崎なら、いついてもいいよ」
くしゃくしゃと頭を撫でては、優しく笑った宮代さんは近くの椅子に座った。
今、この場に宮代ファンがいたら、俺は死刑確定だっただろう。
何かのファイルを開いた宮代さんは、それに視線を落としながら俺に話を振る。
「クラスマッチ、今年成崎は何に出るんだ?」
「ぇ……あー、まずクラスメイトが何に出るか決めないと。俺、学級委員長だし」
「あぁそうか。またやってるんだよな」
「またって……俺が好きでやってるんですよ?……だから、皆の決めてから入れるところに入ろうかなって」
「……働き者かよ」
何か気に食わないことでもあったのか、フンッと鼻で笑った宮代さんに俺も負けじと言葉を返す。
「サボってばっかの誰かさんとどっちがいいですか」
「そりゃ成崎がいいに決まってる」
「でしょ。」
「でも、あまり働きすぎんなよ。去年も走り回ってただろ」
俺だって別に、働き者って程働き者なわけじゃない。サボりたい気持ちは結構あるし、性格は面倒くさがりなほうだ。
だけど、何かを避けるには何かを覚悟しなきゃならない。俺は、その自分に合う方を選んだんだ。
「…………それをしてれば逆に楽なこともあるんですよ」
「……お前、ほんと曲がらねぇな」
「…………ぁ、そうだ。宮代さん、エルドラのところ、読みました?」
急に思い出して、急にそんな単語を投げてみる。でも宮代さんはちゃんと理解したらしくその綺麗な顔を上げて、見とれるような微笑みを浮かべた。
「まだ。ヘンヴィの泉までは読んだよ。……おい、なんだよ、エルドラが何かするのか?」
「うわマジか失言だ。ネタバレじゃんすみませーん」
「くそ、最近バタついてて読めてなかったんだよ。気になるだろ」
人の目を気にせず、生徒会長と笑い合う。
それは俺が愛読している小説の話。超偶然的で、超意外だったのだが、その冒険物語をこの宮代さんも読んでいたのだ。
「ヘンヴィの泉かぁ……あそこの話も好きでした。魔導師が敵だって分かってても、言いたいことっていうか、魔導師の意見にちょっと賛同する部分もあったし」
「それは分かる…………おい成崎、喋りすぎんなよ。ヘンヴィの泉で止まってるって言ったけど、戦争終わったところまでで止めてんだ。その後とかまだなんだからな」
宮代さんの優しくも悪戯っぽく笑う笑顔につられて、俺もからかうように言葉を続ける。
「あー、戦争終わったところねぇ。あれは感動ですよねー。まさか泉が」
「成崎、」
いい加減にしろよと笑いながら、座っている宮代さんに左手を引っ張られる。俺はケラケラ笑ったまま軽く前に倒れた。
互いの顔が近づいて、目があって、またふたりして笑った。
そんな楽しい雰囲気は、久しぶりのような気がしてた。
ともだちにシェアしよう!