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翌日、天候は雨模様。
どしゃ降りまではいかない、パラつく雨。
紺色の傘を差した俺は、早朝の静まり返る寮から誰よりも早く出る。
それでもまっすぐ学校に行くわけではなく、学校を通り越して中庭の更に奥、誰も寄り付かないような場所に向かう。
そこはベンチと外壁の無い簡易屋根がある場所。所謂ガゼボだ。
周囲の植物がそれなりに整えられているのは、利用者が少ないと分かっていても清掃作業員がちゃんと仕事をしているという証拠だろう。
傘を閉じて屋根の下に入った俺は鞄から水筒と弁当箱を取り出す。そして、本。
これが俺の日課。朝早くここに来て、朝食を取りながら本を読む。俺の大好きな時間。
今日は温かい玄米茶に、4種類のサンドウィッチ。昨日の夜、自分で作っておいたものだ。
……作ったといっても、作り置きしてある具をパンに挟んだだけだけど。
ハムとトマトのサンドウィッチに噛みついて、栞を挟んでいたページを開く。
最初の1文を読み、物語に入り込もうとした俺は近くでカサカサと植物が擦れる音がして顔を上げた。
「?…………あ」
「お早う。やっぱり早いな」
「……はよ、ざいまーす」
黒い傘を差して、宮代さんがそこに立っていた。
朝早いとか言っても、宮代さんのイケメンぷりは健在で、朝弱くて顔色悪いとか無ぇのかよ……なんて思ってしまう。
「どうしたんすか」
「……昨日の放課後のこと、ちょっと話したくて……座ってもいいか?」
すぐ屋根の下に入ってこなかったのは、俺に了解を得るためだったらしい。
カッコいい上に配慮もできる。欠点が無さすぎやしないか。
「どーぞどーぞ。朝ご飯食べました?」
「これから学校に行って食べようと思ってる」
「食堂はやってないんじゃ……ぁ、売店?……よかったらこれ食べます?」
向かいのベンチに座った宮代さんに、サンドウィッチBOXを差し出す。宮代さんはサンドウィッチを、何故か数秒眺めていた。
そしてハッとする俺。
「……ぁ、野郎が作った料理とか、考えてみればちょっときも」
普通の、普通の男子高校生だったら男子が作った料理より、お目目ぱっちりの小さくてふわふわな女の子が作った料理のほうが好きに決まってる。
そう思って引っ込めようとしたサンドウィッチBOXは、宮代さんによって引き留められた。
「これ、貰っていい?」
「ぇ、あ、良ければどうぞ」
そして、宮代さんの大きくて綺麗な手はポテトサラダのサンドウィッチを拐っていった。そしてそれは、形の整った唇に挟まれどこぞのCMの如く食べられた。
「…………」
「旨いな」
……不覚にも、見入ってしまった。……おいおいおい、男相手だぞ大丈夫か俺。しっかりしろ、宮代さんは男だ。
錯覚を起こした自分に言い聞かせて、自分が食べていた手元のサンドウィッチを見る。
「……そーすか……なら、よかったっす」
「サラダ、成崎が作ったのか?」
「まぁ……」
「俺は料理、全然しないから詳しくないんだけど、ポテトサラダって結構大変な物なんだろう?」
「行程は確かに手間かもしれないですけど、……俺は結構作りますよ。……つか、単に好きなのかも」
「ちゃんと旨く作れるしな」
「それは俺が俺の好みを知ってるから…………てか宮代さんこそ、しないんですね。勝手に自炊派だと思ってましたよ」
「簡単なものしか作れないよ。殆どは食堂で済ませてる」
混む時間帯は避けてるだろうけど、それでも食べに行くだけで注目されるんだろうな……。俺としては、料理までできるなんて言われたら妬んでた気がするからいいけど。
「…………昨日の東舘のことなんだけど、」
「はい、大丈夫でしたか?」
「東舘は部屋の外……つまり扉の窓越しに俺たちを見たらしいんだけど、それで色々誤解したらしい」
「誤解……」
「取り敢えず、東舘の誤解は解けたから大丈夫だ」
宮代さんのその言葉に少なからずホッとした。
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