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でも、一体何を誤解したんだろう。 俺と宮代さんは、小説の話をしてて、ふざけて、笑いあっていただけなのに。 宮代さんのファンからすれば許せない状況かもしれないが、東舘さんは宮代さんをそういう目では見ていないと思うし……見ていたら、それはそれでどうかとも思うけど。 俺に関してだって、殆ど冗談みたいに絡んできてるわけだし。 東舘さんは“特別”を作るような人じゃない。やりたい時にやりたい人とやるような人だ。……下衆だな。……じゃなくて、あの人が最低なことなんて今更じゃないか。そんなことは今はどうでもよくて。 あんな、性に関して悍馬のような人がなぜあそこまで憤慨してたんだ? ひとり考えを巡らせていると、ベンチから立ち上がった宮代さん。傘を持ち直し、俺に微笑みかける。 「じゃあ、俺はそろそろ行くよ。成崎のひとり時間、これ以上邪魔したくないし」 「俺は別にそんな…………」 否定しようとして、宮代さんの言おうとしてることを察し言葉を切る。 あまり長居して、ここから出てくるところをファンに見られれば、今後に差し支えるということだ。宮代さんは、早朝の俺の過ごし方をよく知っている唯一の人。 「……あざっす。」 「いや、こっちこそご馳走さま。サンドウィッチ、旨かった」 「はは、こんなので申し訳ないすけど」 俺なんかに向けるには勿体無すぎる美しい笑顔を浮かべた宮代さんは、傘を開いて屋根の外へと踏み出した。 凛とした後ろ姿を何の気なしに見ていた俺は、振り返った宮代さんと視線がぶつかった。 「そういえば、昨日」 「?」 「プリント、そのままになっちゃっただろ」 「?…………あっ!!!」 強烈な出来事があったから、すっかり忘れていたその存在。クラスマッチのプリントを多目的室に置き去りにして帰ってしまっていた。 俺がここに来て漸く思い出したことに宮代さんは破顔した。 「忘れてた、俺あのまま、」 「あのプリントあのまま多目的室に置いておくことも出来なくて、成崎の机に置かせてもらったよ」 「……え……?運んでくれたんすか?」 「ぁ、まずかったか?」 「いえいえ!!なんかやって貰ってばっかりで……ほんとすいません、ありがとうございます。なんかちゃんとお礼……いやでも俺、特に何も持ってないし」 落ち着きなく喋る俺に、何かを思い付いたような宮代さんはいつもとは違う茶目っ気のある笑みを浮かべた。 「じゃあ、ご飯1回分でいいよ」 「…………は?」 「お礼。サンドウィッチ旨かったし、成崎の料理が食べてみたい」 「…………そんなのでいいんすか?安いっすね。……つか、男飯なんであんま期待しないでくださいよ」 気抜けして軽い返事をすると、宮代さんは片手を挙げてよろしくと呟いて行ってしまった。 「…………ぁ、好き嫌い……」 宮代さんの姿が見えなくなったところで、食べ物の好き嫌いを聞き忘れた俺は雨に濡れる生垣にぼそっと呟いた。

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