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人生というのは、どうしてこうも後悔ばかりが繰り返されるのだろう。
思えば昨日、多目的室に宮代さんが来た時点で俺はさっさと撤退すべきだった。
東舘さんがキレている時、怒りを沈めて声の音量を下げて貰うよう努めるべきだった。
いや、そもそも、昼休みにあの二人にプリントを運んで貰うなんていう行為自体、あり得ないことで避けるべきことだった。
俺は後悔が何層にも重なり、心情としては現実逃避を渇望していた。
実際、何層にもって、ミルフィーユかよ!……これ誰かに言って笑ってもらえるかな、とか下らないこと考えるくらいには現実から目を反らしている。
朝のHRでズッキーに、意味不明な台詞の理由について明かされた。
それを知った俺は、宮代さんから何が“誤解”だったのかちゃんと聞いて明白にしておくべきだったと、それについても後悔していた。
でなければ、今、こんなことにはなっていなかった筈だ。いや、なっていたとしても、もう少し増しな状況になっていた筈だ。
昼休み、俺は今、宮代さんのファン15人程に呼び出され囲まれている。集団リンチってやつね。見た感じ、可愛い男子生徒が殆どで図体デカい奴はいないから、言葉の暴力がメインかな。
……よし、じゃあ、なんでこんな事になってしまったか、順を追って説明しよう。
昨日、多目的室で起こった恐ろしい出来事。
激怒し、声を荒げていた東舘さんは当然、その場が校内で、しかも昇降口に近い部屋だということを忘れていた。
そして、東舘さんが“誤解”していたこと。
それは、宮代さんがふざけていた俺の手を引っぱったあの光景のこと。東舘さんが見た、窓越しの角度が悪かったのだろう。
それがなんと、あろうことか、…………き、キスしてるように見えたらしい。
俺が千田に救い出されたあと、東舘さんは「ミヤ、なりちゃんにキスしたな!?俺のなりちゃんを穢したな!!」等と大声で怒鳴っていたらしく、それを帰宅すべく昇降口に向かっていた生徒数人に聞かれていたのだ。
その後、2Bの教室にプリントを運んでくれた宮代さんの姿が目撃され、宮代さんは放課後、人目につかぬように俺と密会をしているなんていう、とんでもない憶測まで生まれてしまった。
結果、宮代さんと東舘さんは俺を巡る恋敵であり、宮代さんは密会を繰り返しキスまでした仲である。東舘さんは本気でキレるくらい俺のことが好き。そんななか、“ノンケ”であると言いながら二人の気持ちを玩んだ俺は小悪魔を通り越して悪魔だ。
そんな驚倒の噂が蔓延した。
それが昨日の放課後から今朝に至るまでの話だ。
たった一晩にして学校全体に広がるなんて、あの二人は本当に人気者なんですね……
「ちょっと、なにその顔……聞いてんの?」
やけくそだった俺に、苛ついた声が掛けられた。
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