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「ぇ……あ、はい。」 「あんたさ、ノンケじゃなかったの?」 「僕らのこと、ていうか、全校生徒みんなを騙してたの?」 凍てつく空気、俺を敵視する視線しかないけど、やっぱり違うものは違うと言わなければ。 「騙すって…………回りがみんな“そういう人たち”なのに、嘘つく必要あります?俺は本当にノンケですよ」 「じゃあなんで会長様に近づいたの?気を引くためじゃないの?」 「別に俺が望んで一緒にいたわけじゃ」 「何それ!?会長様からだって言うの!?」 「あんたほんとに遊んでたの!?最低!!」 えぇー……?どっちにしても気に食わないんじゃん。じゃあ俺なんて答えたらいいわけ? 理不尽な尋問にどう返答すればいいか苦慮していると、突然ファンのひとりの可愛い男子生徒が泣き出した。男とは思えないぱっちりとした目から大粒の涙が溢れてきて、俺はギョッとする。 「僕だって……こんなことしたくないよ!」 「……は?」 「会長様が御心を寄せた人なら、応援するのが僕たちの使命だもん」 「…………え?」 いや、応援するも何も、寄せられてねぇし。 「でもその御心を玩ぶような人が相手なら、僕たちは許せないんだよ!会長様は優しいから君を責めないと思うけど!!僕たちは許せないんだよ!!」 「会長様のために、僕たちが心を捧げた人のために、僕たちは闘いたいんだよ!!」 「そうだよ…………君もそういう気持ちは、分かるよね?」 ………………全然。 劇場型信者を前に唖然とする俺は、キラキラと涙を流す数人にどう返していいのか最早判断できないでいた。 「会長様は、あんたに優しく接してたじゃん……」 宮代さんは、基本誰にでも優しいと思うけど…… 「あの眩しく神々しい笑顔を、あんただけに向けて……」 他の友達にもちゃんと笑ってるよ。宮代さんはそんな無愛想じゃないよ…… 「困ってたら、いつもすぐ手伝ってくださり……」 あれは偶々だよ。いつも現れたら逆に怖いよ。監視されてんの? 「僕なんか…………僕なんか荷物持って貰ったことないのにいいぃいい!!!」 「それ恋人の特権じゃん!!あんたそれでも違うっていうの!?」 「こじつけ感凄いんですけど!!友達同士荷物の持ち合いとかよくあるじゃないですか!!」 俺を囲む人たちがみんな泣き始め、泣き落とし状態になったので我慢できずに俺は声を上げた。 「だ、大体、会長と一緒にいるの気に食わないんじゃないんですか?なんでそんな恋人みたいな話に持っていこうとするんですか!」 「抜け駆けは許さない!!…………でも、」 「?」 「あんたは会長様と…………き、……き、……唇まで確かめた仲!!」 「言い方ぁあ!!なんか嫌なんですけどその表現!!」 「僕らは一歩下がって会長様を御支えする身。でも君は、僕らの数歩前を行っていたから!」 行ってないよ、いつそんな進んだの俺。 「あとは、会長様と結ばれるよう僕らは背中を押すだけ……」 突き落とす気か。 「待って…………待ってください皆さん。ちょっと、落ち着いてください。まず、俺は会長としてません」 「ぁ、あ、当たり前でしょ!!まだ早いよ身の程を知れ!!」 真っ赤になる男の子に、俺は自分の言動を振り返り大いに焦った。 「ちが、違います!!そっちじゃなくて、いやそっちもだけど!!!き、キスのほう!!してないから!!」 「…………ぇ?」 ファン全員が涙に濡れた瞳を俺に向け、パチクリと瞬きをした。 「あの…………副会長が、見間違えただけで……。何もしてないです、本当に」 「…………じゃあ、会長様との密会は……?」 「ふたりの愛の巣で、情熱的な愛を育んでたんじゃ……?」 この人たち、どんな脳味噌してんだよ。そんなもん、育てた覚えねぇよ。俺が育てているのはローズマリーだよ。 「あれは俺の忘れ物を教室に届けてくれただけです。ご心配なく」 「…………じゃあ」 「はい」 「………………」 後ろめたい事なんてない俺は堂々と彼らと向き合う。そんな態度が伝わったのか、言葉を詰まらせる彼らは最後に一言、強い視線で俺に言った。 「ノンケなんだから気をつけて。誤解されるようなことはしないで。」 「……猛省します」 それについては、俺も強く心に刻んだ。

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