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宮代ファンに解放された俺は、教室に戻る廊下を力無く歩く。呼び出された場所があまり人がいない場所だったからか、その周辺の廊下や空き教室も人の気配がしない。 迂闊だった。さっきまで宮代ファンに拘束されていたせいで、その事ばかりに意識がいっていて、“人がいない部屋”の恐ろしさを軽んじていた。 「んあぁ───……!!」 聞きたくもない矯声が耳に届いて、俺はゾッとして硬直した。 視界に入る部屋は全て空き教室。その何処かから恐ろしい声が聞こえた。 どうしよう。この場から一刻も早く逃げたい。でも無闇に音を立ててみろ。真っ最中のそいつらに見つかったら、かなり面倒くさい。なかには他人に行為を見られて喜ぶなんて信じられないような奴までいると聞く。 どうにか、バレずにこの場を去りたい。 …………願わくは、俺が吐く前に。 俺が脱出策を見出だせないでいると、聞こえてきた会話。不幸中の幸いなのか、どうやら行為は終わったらしい。 「気持ちよかったぁ……」 「あっそぉ」 「和喜は?」 ……東舘さん、あんたかよ。 頭を垂れる俺のことなんか知りもしない東舘さんは、その相手と会話を続ける。 「よかったんじゃない?」 「何それー!」 「ねぇあの噂、やっぱマジなの?」 「あー2年の?本当なわけないよね和喜?」 …………知ってたよ、あんたが低劣な人だってことは。たださ、あんたと話してる人がひとり以上いるってことはさ、やってるときもそういうことだったんだろ……。本当に吐きそうなんだけど。 「何?皆そんな気になるわけ?」 「ていうか、ちょっと嫉妬?和喜の本命とか存在しないものだと思ってたし」 「そうそう。なれるならなりたいけど、和喜そういうの重いとか感じる人だと思ってたよ」 「分かってるじゃん。本命とか、そんなの持ったって面倒なだけでしょ。束縛とか、俺無理だから」 だよねーと東舘さんの言葉に同意する回りの人たち。他人の人間関係なんてそれこそ他人事だしその人たちの感覚で好きにすればいいと思う。 俺には全然関係ないことだ。……関係ないことだけど……好きな人に重いの無理だからって言われて、本命を諦められるものなんだろうか。 腹の奥、ずっと奥底で何かがモヤモヤと疼いた気がした。 「でもじゃあなんで和喜はずっとあの2年に構うわけ?」 「なりちゃんは俺に迫られたって、勘違いして浮かれないからね」 「僕たちは勘違いしてるってことぉ?」 「君たちは俺に優しいでしょ」 「だから何?」 「それが、違いだよ」 東舘さんの言いたいことが分からず、回りの人たちは軽い不満を口にしている。俺だって、東舘さんの言葉の意味が分からない。 というか、話を盗み聞きしている場合じゃない。人のいる部屋は特定できたんだ。至急ここから立ち退こう。 腰を曲げ、姿勢を低くした俺は扉の窓から見えないように静かに歩き出す。 「じゃあ和喜、またね」 「うんじゃあねぇ」 あ、まずい。 そう思った時には、もう手遅れだった。 開けられた扉から出てきた男子生徒と中腰の俺は、ばっちり目があってしまった。 「……噂の彼、はっけーん」 「……違うんです」 「何が?」 「偶々ここ通っただけなんです」 「そうなの?」 「はい。だから、見逃してください」 「だーめ」 「お願いします、勘弁してください」 「遠慮しなくていいよ」 可愛い顔してなんて強引な…… 超女顔の3年生に腕を引っ張られて、空き教室に引き摺りこまれた。

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