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今日は精神的にも、体力的にも疲れたので、いつもより早い時間に寮に戻ってきた。 食堂はいつも混んでいる。 数回しか行ったことがないくせにそう思い込んでいる俺は、今日も部屋で晩御飯を済ませた。幸い、昨日作ったパスタの残りがあったのでそれを温めて夕食とした。 窓際に置いてあるローズマリーの土の湿り気を確認してから、ソファーに座り一息吐いた。 ぼーっと天井を見上げていた俺はローテーブルに置きっぱなしだった小説を何気無く手に取りページを捲る。 それは既に読み終えていた巻だったけど、自分が好きな作品だから何度読んでも、結末が分かっていても楽しめる。 読み始めて数分、時計と本のページを捲る音だけがしていた俺の部屋に、来客を知らせるチャイムが鳴った。 いつもの過ごし方だったら、俺はまだ寮に帰ってきていない時間だ。 ぶっちゃけ怠いし、居留守を使いたい。 でも、俺の過ごし方を知った上で、今日は帰ってきていると来訪者が知っていたら、居留守を使ったことがバレるかもしれない。それも面倒だ。 じゃあ、どうするか。俺がやるべき事は決まってる。 俺は怠い体をソファーから起こし、部屋のドアを開けた。 「……ぁ」 「ごめん……疲れてるって、分かってるんだけど……」 ドアの前に立っていたのは私服の藏元だった。申し訳なさそうな顔でいる藏元は、私服姿もかっこいい。大きめのパーカーと、ゆったりとした形のパンツ。背が高いからか、ゆったりシルエットの服でも細く見える。 何なのお前、喧嘩売ってんの? 「……成崎?」 「あーいや、……どうした?」 「ごめん、成崎が大丈夫そうだったら、話したいことがあって……」 「おう、いいよ。入って」 「疲れてるのに、ごめん」 「大丈夫だから」 本当の事言うと、体調が優れないとか、これから予定があるとか、適当にあしらうつもりだったけど……。藏元ならちょっとくらいいいか、と部屋に入れた。 部屋に通すと、藏元は中を見渡しては小さく笑った。 「何?」 「本、いっぱいあるなぁと思って」 「あぁ……そう……かも?」 ソファーの向かい、テレビの横にある本棚はぎっしりと本が並べてあって、収納スペースは残りわずかだ。同室者がいない今、あの本は全部俺の物ってことになる。 「成崎は、読書好きだったんだね」 「んー、好きだよ」 「だから聞き慣れない諺とかも知ってるんだね」 「んー?そういうことになるのか?」 「本をたくさん読む人って、知識も知らぬ間につくらしいじゃん」 「俺は好きで読んでるだけだけどね」 そんな他愛ない会話をしながら藏元をソファーに座らせる。 「なんか飲む?コーヒーか紅茶か……あと、サイダーか、ミネラルウォーターならあるけど」 「すぐ帰るから、気にしなくていいよ」 「何も出さないのも気になるだろ」 「あはは……じゃあ、コーヒーかな」 「砂糖とかは?」 「ブラックでお願い」 「おっけ」 俺に気を遣う藏元に少し呆れながら、コーヒーを準備する。……にしてもブラックって……砂糖とミルク入れなきゃ飲めない!とか餓鬼っぽさはないのねやっぱり。……でも、もしあったら今度はギャップ効果でプラスに働くのか?何でも得して羨ましいですよ。 「はいどーぞ」 「ありがとう」 カップに注いだコーヒーを藏元に渡して、俺はソファーの斜め前の床に腰を下ろした。二人用ソファーだから座るスペースはあるんだけど、何となく今は床に座る。 取り敢えず、俺は紅茶を飲みながら、藏元が話し出すのを待った。 「……同室者の斎藤に、成崎の事聞いたんだ」 「俺の事?」 「うん。成崎って、凄い忙しい立場の人だって」 「忙しい……」 「まぁ確かに斎藤の言う通りだったよ。校内案内以降、成崎は何かしらの呼び出しとか作業とかしてて話す機会なんてほんと無くて……」 「まぁ……係も掛け持ちしてたりするしなぁ」 「迷惑だって、分かってはいたんだけど…………学校で難しいならと思って、登校前にここに来てみたんだよね」 「まじ?」 「うん、ただ、もう居なかったから。朝も早いんだね」 凄いねと笑う藏元に俺も愛想笑いで返す。 いないのは当然だ。だって朝は、あの場所に行っているんだから。 「その、俺の誤解だったら謝るんだけどさ……」 「ん?」 「…………俺と、距離置くのも目的のひとつ?」 数秒黙ってしまった。 だって、図星だったから。 でも、分かってほしい。藏元の見た目がこれだ。転校初日から、クラスメイトたちが見とれて、キャーキャー言っていたんだぞ。そんなイケメン様、宮代さんや東舘さんのように、ファンができるのも時間の問題だった。 俺がずっと傍にいれるわけ無い。 どれだけ藏元がいい奴だろうと、嫉妬に狂うファンたちは皆がみんな聞き分けが言い訳じゃないから。 だから俺は、忙しいを理由に用事があるとき以外藏元には関わらないようにしていた。

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