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翌日、8時25分、少し早めに登校した。 自分で認識してるくらいいつもギリギリの登校だから、当然、回りのみんなも驚いていた。 「どうしたの?早いね成崎くん」 早くはない。5分前とか、クラスの皆はとっくに来ているよ。どっちにしろ俺が最後だよ。 「んー、昨日バタついたせいでプリント配るの忘れてたからさぁ」 クラスメイトの質問に答えながら、1番前の席の生徒にプリントを1列分渡していく。それを後ろに回しながら、プリントの内容を見た生徒は楽しげな声を上げた。 「クラスマッチだぁ」 「今年は何に出よっか?」 「んー、彼氏に相談しないと」 「ぁ、僕も話さないと」 盛り上がる皆さん。うん、楽しんでいただくのは大いに結構。 ただ、ちゃんと、話し合ってよ。出場する競技について、しっかり、充分に、彼氏さんと。そこが曖昧のまま参加すると酷い目に遭うから。俺が。 ため息を圧し殺しながら、プリントを配り終える。丁度チャイムが鳴って、ズッキーが入ってきた。前にいた俺は席に戻ろうと1歩を踏み出すが、ズッキーに肩に腕を回されて止められる。 「おう、おはよう!クラスマッチのプリント、配られたなぁ」 「はーい」 近くの生徒が持っていたプリントを見ては、雑用がひとつ終わったことにニンマリと笑う先生。 「ありがとう成崎、助かったよ」 「配り終わったので、席に戻らせてもらえないですかね先生」 「それがなぁ、成崎」 「はい」 「先生がっかりだよ」 「なんすか。絡みが面倒くさいので手短にお願いします」 「俺はてっきり、クラスマッチ、お前は宮代とイチャつくもんだと思って─ぐふぉっ!!」 「ぁすんません先生、肩凝ったからつい」 ズッキーの鳩尾に、肘をブチ込んでやった。 宮代ファンの尽力もあって、せっかくあの噂が沈静化してきたんだ。余計な波風を立てないでほしい。 俺が席に戻るなか、ズッキーは鳩尾を摩りながら他の生徒たちに注意を呼び掛ける。 「……お前らもちゃんと彼氏と話し合えよ。特に、接触の多い競技に出たいと思ってる奴」 「えー、バスケ出たかったのにぃ」 「サッカーやりたいけど、絶対駄目って言われるよぉ」 「勿論、やりたい競技があるならやれ!ただ、話し合いだけはちゃんとしろよ!じゃないと、災難が降りかかるぞ」 「…………!!」 「成崎に」 ズッキーの言葉に、ネコ側の生徒たちが肩を窄めた。彼らは皆、自分の事だろうと思ったんだろう。ただ、ズッキーの最後の言葉に、疑問と同時に皆の肩の力みが消えた。 いや安心しないでよ。俺に災難が来るんだよ。他人事万歳じゃないよ勘弁してよ。 「あの、先生」 「どうしたイケメン藏元!」 「その呼び方やめてください。」 「じゃあ藏元王子?」 「…………なんで成崎が災難に見舞われるんですか?」 ぁ、ズッキーの絡みを無視した。藏元も、意外と冷たいところあるよね。 「なんでって、恋人が他人と接触するところなんて見たくねぇだろ?だから、選手交代になったときは大抵、ノンケの成崎が出るんだよ」 「そんな理不尽な話……」 驚く藏元だけど、回りを見てみなよ。他の奴等は皆、申し訳ないけど致し方ないと言いたげな顔をしている。 これが現実なんだよ藏元。いくらノンケが普通だと思ってても、多勢に無勢では何もできない。ここじゃ、これが普通なんだよ。 多数派支配型民主主義、万歳。 俺が後ろの席から早く終わらねぇかなーと眺めていると、藏元が俺を一瞬見てから先生にキラキラの笑顔で笑いかけた。 「なら俺もノンケなので、今度のクラスマッチ、俺も使ってくださいね」

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