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渡辺が泣き始めて6~7分が経過した。
幸い、教室には俺と渡辺しかいなかったから、渡辺を俺の前の席に座らせて大粒の涙が止まるのを待った。
「ぅ……うぅ……んぇー」
「んー、ゆっくりでいいから。泣けるだけ泣いちゃえ」
「なり、さ……ぅう゛ー……」
これが5分以上続いてる。相手は俺と同い年なんだけど、小学校低学年の子みたいに泣いている。この歳でここまでガッツリ泣けるのも、ある意味凄いよな。
俺の“泣きたい”って感情はいつ出掛けたのか、知らぬ間に居なくなってて、そのまま帰ってきてない気がする。
机の上で腕を組んで、俯いて泣きじゃくる渡辺の旋毛を無意識に見つめる。
教室の時計は5時を回った。
「……ふぇ……グズッ……うー……」
「…………落ち着いた?」
「……ん……うん」
「話せそう?」
「……うん」
「じゃあ、渡辺、話せること、渡辺のペースでいいから、教えて?」
「…………うん。……あのね、……俺、……か、勘違い、してたみたいで……」
「勘違い?」
恋愛の縺れか?
「うん……、う゛ぅーっ」
「あーほら、我慢すんなって。泣いていいから」
「うぇーっ……成崎くんっ、成崎くん、成崎くん」
「んー、渡辺が落ち着くまで待つから大丈夫だって」
一向に進まない相談。でもね、こんなのいつものことなので、覚悟の上ですよ。
酒でも飲んだのかってくらい酷い奴も結構いるし、これはまだ全然楽な方。
俺の腕にしがみついてくる渡辺の頭をゆっくり撫でて、なんとか落ち着いてもらえるよう努める。
そこへ運悪く戻ってきた藏元は、状況を理解できず目を見開いて固まってしまった。眉を寄せて、一体何事だと事態を探っている。他の人が来たと気づけば渡辺は余計焦るだろう。
俺は口許に人差し指を当てては、何も言わずに静かに教室を去るよう藏元に示す。
「成崎くん、俺、……成崎くん俺ぇ……!」
「んー」
藏元と無言の挨拶を交わしつつ、渡辺のグズグズの呼び掛けになるべく優しく反応を返す。
暫くかかるだろうなぁ、と思っていた俺にいきなり顔を上げた渡辺はむせ返りながらも声にした。
「俺、髙橋くんと、……付き、合えるっ……みたい……!」
「………………はい?」
なんだそれ。
え?顔面ぐちゃぐちゃにして、喋れないほどしゃくり泣いてた理由は、悲しい話じゃなくて惚気話?
おいおい、俺の優しさ返してくれよ。これから相談窓口有料にするぞ。
「……よ、よかった、……じゃん?なんで泣いてんの?」
「……成崎くん!髙橋くんだよ??」
「……えー、と……どちら様でしょう?」
「生徒会の!」
「……え゛……!?」
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