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「あ」 「ん?」 日も暮れて、寮に帰った大多数の生徒たちが食堂に集まっていた時間、俺はエレベーターホールで藏元と遭遇した。 生徒が何百人も暮らすこの寮で、よく鉢合わせたな…… 藏元は既に私服で、手にはビニール袋を持っていた。どうやら食堂ではなく、スーパーに行ってきたらしい。藏元も、俺の様子を見ては制服を指摘した。 「制服……今帰ったんだ」 「んー。長引いた」 「あの泣いてた子、大丈夫だった?」 「どうにか解決したってことでいいのかなぁ……?」 「教室に入ったらいきなりあの光景で、成崎が泣かせたのかと一瞬思っちゃったよ」 「俺も客観的にそう思った」 ふたりで軽く笑って、到着したエレベーターに乗り込む。 「……ぁ、呼び出し。告白だったんだろ?」 「…………うん」 「あれ1年生?俺は初めて見ると思うんだけど」 「うん。凄いね、成崎相談員は生徒の顔、覚えてるんだ?」 「全員なんて知らないけど、なんとなくは分かるかも……相談窓口、転職したいよ。」 「はは、でも、慰めてる時の成崎凄く…………」 中途半端なところで言葉を切った藏元の横顔は、何かを思い出してるように見える。 何?俺がどうしたの? 「……藏元?」 「……ううん、なんでもない。頼られてるなって」 「…………あっそ……」 絶対、そう言おうとは思ってなかっただろ。藏元は何かを誤魔化した気がする。 「あの1年生、昨日3年生に告白されたんだって」 「ぁ、そーなの」 「でも俺の事が好きだから告白して、気持ちを整理してから、3年生と付き合うか考えるつもりだって言ってた」 自分が好きな人と、自分を思う人。 そのふたりを天秤にかけて、自分が求める恋愛はどちらなのか選ぶのか。……それはそれで、ひとつの恋愛の方法なのかもしれないな。 エレベーターの扉が開き、外に出る。 「でもさ、それってちょっと狡いよね」 「……え?」 「……まぁ、あの子の言い方が気に入らないってのもあるけど……」 藏元の声が少し低い。よく見ると、眉間にほんの少し皺も寄っている。 男子からの初告白は、動揺より苛立ちの方が強かったらしい。 「……付き合ってから人を知るってのも、俺は有りだと思うけど」 「…………」 ボソッと呟いた俺に、藏元は目を細めて歩みを止めた。 あれ、俺失言した?なんか藏元、すげぇ苛ついてんな。 「イメージと違った、て付き合った後に言われたことある?」 ……あー、そういうことか。そこまで考えてなかったわ。 「……ごめん。俺見た目通り、平凡で面倒くさがりで雑だから、ギャップに驚かれるなんて事ない。考えなしで、悪い」 「あっ……!ごめ、俺こそごめん!!……俺八つ当たりした、……最低だね」 俺が反省すると、藏元はすぐいつもの藏元に戻って謝罪してきた。 こんないい奴、いいギャップしかないんじゃないの?藏元にそう言った人は、何がイメージと違ったんだろ? 「…………俺は、友達になってから知った藏元の、意外と冷たいところとか、結構頑固なところとか、すぐ謝るところとか、好きだけどな」 「………………」 「……?……ぁ、友達として、な?」 「……うん、……うん。分かってる。素直に嬉しい。ありがとう成崎」 容姿に恵まれてるからって、望む結果が毎回あった訳じゃない。藏元は藏元で、苦労してる。 俺はその事を今更ながら、ちゃんと認識した気がする。

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