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「成崎ぃ、なんかさぁ、始まる前から既に空気悪いから、まだ交代するか分からないけど一応第2体育館に来といてくれる?」
と、偶々試合の様子を見に行っていたズッキーからそんな一報が入った。
嫌な要素がてんこ盛り過ぎる。始まる前から空気悪いとか、最悪じゃん。そんなところに俺を投入するとか、俺は空気清浄機か。そんな機能備わってないよ。
しかもその試合、第2体育館ってことはバスケじゃん。嫌だって、あんだけ言ったじゃん。
そんでもってその試合の対戦相手、東舘さんのクラスじゃん。
空気悪いなか、なるべく避けたい人と、嫌いなスポーツで競うなんて、どんな地獄だよ。
なのに皆、俺の拒絶を聞こえてないことにしてる。え?なんで?俺の拒絶する声って人には聞こえない周波数の音とかなの?その場合、俺はどうやって拒否すればいいの?
俺に人権はないのですか?
「お、来たなぁ成崎ぃ」
来たなって……言うだけ言って一方的に電話切ったのは何処のどいつだよ。
体育館の出入り口付近に立っていたズッキーに近づき、聞こえるようにため息を吐いた。
「はぁ……ズッキー、俺マジバスケだけは出たくないんですけど……」
「そう言われてもなぁ……ほら、見てみろよ。あっちのチームに江口がいるからさぁ」
「げっ!……あー……じゃあ、佐藤と江口先輩、まだやりあってんですか?」
ズッキーの疲れた顔に、俺までげんなりする。
東舘さんのクラスにいる江口先輩はある生徒にベタ惚れしていた。だけど、その生徒とうちのクラスの佐藤がいい雰囲気になっちゃったもんだから江口先輩と佐藤は犬猿の仲、というわけだ。
……まぁ、その取り合ってた人は結果、髙橋と付き合ったんだっけ。……ぁ、今は別れて、渡辺と付き合ってるのか。
ゴチャゴチャし過ぎて、もうワケ分かんないよね?俺も分かんない。他人の痴話喧嘩には関わらないほうがいい。
触らぬ神に祟りなし。全くその通りです。
「取り敢えず、お前は2階の観覧席にいてくれ」
「何事もなく終わりますよーに」
パンパンと柏手 を打った俺に、ズッキーは憐れみを込めた視線を送ってきた。
分かってるよ、無事終わる可能性はほぼ皆無だって言いたいんだろ。でもいいじゃないか。皆無でない限り、“ほぼ”に賭けたっていいじゃないか。
平和を望んじゃ、いけませんか?
…………何かの宣伝文句みたいだな。
ウォーミングアップする生徒たちがいるコートの横を通って、2階に上がる。
クラスの応援もそうだろうけど、流石東舘さんのクラスってだけあって、観客が多い。注目度が高い。ただ、東舘さん本人はまだ体育館に姿を現していない。
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