手すりにもたれ掛かり、出番がないことを祈りつつコートを見下ろしていると、隣に来た人が容赦なく横に詰めてきて肩がぶつかった。 「成崎発見！！」 「……いつも元気でウラヤマシイヨ、髙橋くん」 ……近い。髙橋に、いい加減パーソナルスペースを学んでほしい。いつも肩に手を回してくるのは、髙橋久道という生物の習性なんだろうか。 「なっはっはー！今日は更に元気！暴れまくってんぞ！」 「でしょうね」 「運動って最高！やっぱりテンション上がるよな！つか暑いんだけど！」 「じゃあ離れろよ！わざわざくっついてくんなよ」 俺が指摘しても、笑うだけで離れやしない。 というか、言って聞くようなら、もっと前から距離を保てるようになっていたと思う。 「なぁなぁ成崎、俺さっきまでサッカーしてたんだぜ？」 「…………」 はい、嫌な話題きた。 どうせ、見に行った？藏元凄かったぞ？みたいな話だろ。 友達なのに、友達のくせに、行ってないよ。悪かったな。 「俺はまだ当たってないけど、2Bの試合見たよ。藏元、凄かったな！見た？」 ……俺の予想をちっとも裏切らないよね君。 「係の仕事あったから見てないよ。それが何か？」 「怒んなよぉ！上手いなって誉めてんのに！」 「それ、本人に言うことであって、俺が誉められてもね……」 「あー確かに！……でもさ、あんな上手いのに部活入ってねぇよな？」 「……本人は、入る気無いらしい」 「なんだよそれ！勿体無ぇ！俺一緒にプレーしてみたかったなぁ！」 …………髙橋がここまで誉めるなんて、相当だよな。藏元、周囲にこんなに言われるくらい得意なスポーツがあるのに、それをやらないで、お前いつも何考えてんの？ 「…………で、髙橋は、ここに来たってことはバスケも出るの？」 「いや、バスケは出ないよ」 「？じゃあ何しに……」 「おいおいー、俺の彼氏の応援に決まってんじゃん！」 「…………ぁ、」 言われてコートを見れば、2Bのチームの中に渡辺がいることに気づく。 ……あれ、この試合、想像以上にまずいんじゃね？ 「ていうかさ、東舘先輩いないな。まだ来てないだけ？」 髙橋は東舘さんを見つけようとコート周辺に目を配る。そんな髙橋と目が合った回りの生徒は、何を勘違いしたのか頬を赤らめている。 「さぁ……あの人は気分で試合に出るんじゃない？」 「あー！それあり得る！」 東舘さんがいないのに、現状だけで最早ヤバイじゃん。 この中に交代で入れられるとか、俺には荷が重すぎるんですけど…………。 あー、吐きそう。 俺の重圧感を嘲笑うかのように、ついにコート中央でボールが空中に投げられ、試合が開始された。