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試合が始まった時は居なかったくせに、東舘さんは今、そこにいた。 ビブスを着ていない東舘さんはコートに入れない筈なのに、審判も含めた周囲の人たち、皆が萎縮してしまってて誰も注意しない。イケメンが凄むと、迫力は数倍になるらしい。 江口先輩の目の前に立って、東舘さんは優しい声音で呟いた。 「江口」 「っ……」 「お前の恋愛事情とか、俺は全然興味ないから好きにやってくれていいんだよ。クラスマッチだし、2Bは敵だし」 「っ、俺、は……、」 「たださ、」 黙れ。言い訳は聞かない。 そう言うように東舘さんは江口先輩の言葉を遮った。 「俺のなりちゃんは敵じゃないって、言ったよね」 …………それ、マジでクラスの人たちに言ってたんすか。あの場限りの冗談だと思ってましたよ。というか、クラスメイト全員の前でそんなこと言われて、俺が東舘さんに賄賂渡してるとか誤解されない?大丈夫? 「……と、東舘……俺は別の奴に」 「なりちゃんに、怪我させたのは誰なの?」 「…………っ……!」 「さっさとベンチ下がってくれる?」 「…………」 「つーか、俺の視界から消えてくれる?」 東舘さんの殺気に、会場は氷河期を迎えた。江口先輩は既に凍死してしまっているかもしれない。 「なりちゃん」 「……ぉ、俺は全然大丈夫なんで、東舘さんも、許してあげてくだ」 「あいつのこと庇ったら、もっと腹立つんだけど?」 「………………」 俺だって人間なので、可哀想にもなるよ。 だって今の江口先輩、呼吸してるかも怪しいから。うちの学校、何処にAED設置してあるんだっけ。 回りの人たちも凍えてるから、犠牲者を増やす前にここは一先ず話題を変えようか。 「…………東舘さん、江口先輩と交代して、試合に出るんですか」 「うん。なりちゃんには悪いけど、勝たせてもらうね」 「ぁムカつく」 「どうせ負けるんなら、なりちゃんは無理せず、保健室に行きなよ」 「あんたその言い方どうにかなんねぇの?」 黙ってれば見惚れる程の顔なのに、この人に“穏やか”を感じたことがない。 「俺、なりちゃんいたら本気出せないし」 「なら俺は残ってあんたの妨害して」 「成崎」 「ぅわっ!?」 東舘さんに腹を立て、向きになっていた俺は、突然後ろに引っ張られて上擦った声を上げてしまった。 「保健室に行きなよ、成崎」 「く、ら元……ビビったぁ……」 真後ろに現れたのは藏元だった。今の今まで、サッカーをしていたのか、汗で濡れた髪が頬に張り付いている。 腕を引っ張られたことで、俺の背中と藏元の胸が密着していて、そこから少し駆け足になっている藏元の心臓の音が伝わってくる。 回りの連中が、藏元の登場に、驚きつつも喜んでいた。 ……さ、爽やかぁ……。風呂上がりですか?全然汗臭くないんですけど。 あれか、よくある洗濯用洗剤の売り文句だろ。 “汗をかいた後も、洗い立ての香りそのまま” ってやつだろ? 藏元の使ってる洗剤が凄いのか、藏元が凄いのか。どっちも凄いんだろうけど、俺が言うべきことはひとつ。 ……使ってる洗剤教えてくれる?

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