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藏元が来たことで多少、緊迫した空気は和らいだ。
東舘さんはほんの少し笑顔を残して、藏元は感情が読み取れない表情をして、ふたりは向き合っている。
見とれている人からすれば、イケメンが見つめ合ってる!なんて美しい絵画のような光景なんだろう!目の保養!心のオアシス!こんな機会無いから今のうちに写真を!といったような、眩しい聖地に見えていることだろう……。
そんなふたりの間に挟まれてる俺はといえば、ふたりの殺伐とした空気と、ファンからの殺意ある視線に斬り殺されそうです。
羨ましいとか思ってる奴、挙手!この特等席代わってあげる!さぁ!早い者勝ちだよ!さぁ!!お願いだから誰か手ぇ挙げてぇ!
そこへ追い討ちをかけるように、髙橋まで来た。
もういらない!ファンの嫉妬が強すぎる!!
「…………成崎、脱いで」
「…………ふぇ?」
脳内大絶叫の俺は突然の藏元の言葉に、阿呆丸出しの声をあげた。
回りの生徒たちは、真っ赤になっている。
「ちょ、……藏元くん!?何言ってるの!?」
渡辺が、俺の代弁をしてくれた……のはいいんだけど、凄い恥じらってる。
「大胆かイケメン藏元!成崎、アタックされてるぞ!」
勝手に変な想像して興奮しないでズッキー。血圧上がっちゃうよ。
「……ぁ、ビブス。俺が代わりに出るから、脱いで?」
「…………なんだ」
なんだってなんだ。今呟いたの誰だ。何を期待してたんだ。
「ぇでも、藏元、たった今サッカーから戻ったんだろ……?」
「わぁお!藏元くんが出るの?じゃあ俺も、ちゃんと頑張らないと」
それ俺の前で言うのかよ。あんた失礼だな。俺の時は余裕ぶっこいて、手抜いても勝てる的なこと言ってたのに。……本当のことだけど。
「……でも、続けて試合は、」
「大丈夫だよ。成崎は、ちゃんと手当てしてきて?ね?」
……きゅん、とか言えばいいのかな。
ビブスを脱いで、藏元に渡す。それを横で見ていた髙橋が、俺の手首を掴んで藏元に告げる。
「保健室には俺が連れてくから、安心しろ!」
「……うん、よろしくね。髙橋くん」
藏元の返事をもらって、髙橋はチラリと俺の後ろを見た。
「渡辺も、一緒に来る?」
「!ぅ、うんっ」
……そういうところはちゃんと気遣えるんだな。勘違いされるほど優しいって、こういうところなんだろうな。
俺が余所事を考えていると、手首を掴んだまま歩き出す髙橋。それについて来る渡辺。俺は後ろを振り返りながら抵抗する。
「ま、待って髙橋……!」
「大丈夫だよ、藏元のことなら」
「……お前いい加減なことばっか言って」
「俺思い出したんだよ、藏元のこと」
「…………ぇ……?」
「だから、大丈夫」
髙橋の言葉が、胸の奥をざわつかせる。また、俺のなかの知らない感情が顔を出す。
知りたいけど、聞きたくない。
はっきりしない自分の感情が苛立たしい。
困惑して、再び振り返れば徐々に盛り上がりを取り戻す会場の中心で、東舘さんと藏元が真剣な顔で何かを話している光景が見えた。
「まぁ今は、自分の怪我の手当てが最優先!」
髙橋に引っ張られて体育館の外に連れ出された俺は、背中越しに歓声を聞きながら保健室に向かった。
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