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つい数時間前まで、ここに怪我人を送ることが俺の仕事だったのに……まさか、自分が送られる側になるとは。
髙橋に付き添われ保健室の扉を開ければ、保健委員が俺を見て動きを止めた後、鼻で笑った。
「君は裏方だと思ってたけど、ちゃんと試合にも出てたんだね」
「ははは……裏方専門職があれば、ぜひ紹介してほしいんだけど」
「そんなの知らないよ」
とんでもなく辛辣な保健委員だった。
外傷は治しても、心の傷の治療は仕事じゃないということか。……効率的だね。
「会長様とお話し出来るほどの仲なんでしょ?会長様にお尋ねすればいいんじゃない?」
…………この保健委員は宮代ファンだったのか。
この人は、保健委員だから、ではなく、俺だから、辛辣なのか。……それが分かったところで虚しいだけなんだけど。
少し気まずくなって、保健委員が傷口を消毒する様子を黙って見守る。付き添いの髙橋は窓の外を眺め、その隣で渡辺はモジモジと照れている。
「……随分焼けてるね……どうやったらこんなに摩擦で焼けるわけ?」
「あー…………ボール落とされた池の魚、みたいな……」
「……はい?」
「何それ!どういうことだよ成崎!!魚??どこ?!」
顰めっ面の保健委員と、なんだか知らないが面白そうだとはしゃぐ髙橋。渡辺に至っては、授業で難問を出されたかのように悩んでいる。
真剣に悩まれても、面白い回答が返ってくるだろうと期待されても、困る。
「池にボール落ちたら、やっちゃったー!ってなるよな!」
髙橋、俺は決してそんなことは言ってないぞ。
「怪我の理由とか、なんでもいいけど…………君さ、」
「はい?」
「どんだけ浮気性なの」
「はい??」
突然始まった悪口。
「会長様と副会長様、両方と近しい立場のくせに、まだ足らないって言うの?」
「え、と……何の話でしょう……?」
「とぼけないでくれる?」
保健委員の声に、少しばかり苛立ちが加わる。とぼけているつもりはない。話が全然見えないだけなんだ。
「転校生の王子様と、更には髙橋くんまで……」
「??……ふたりがどうかした?」
「イケメンばっか侍らせてんじゃないよ!!」
えぇえ?どんなクレーム?無茶苦茶なところにキレてるよこの人。
そもそも、この保健委員の目には、渡辺の存在は映っているのだろうか。
「あのさ……藏元は友達だし、……髙橋はここに一緒にいる渡辺と付き合ってるわけだし。……だから、今一緒にいるのも偶々だよ」
「そんな偶々の連続ってある?偶然が重なってイケメンに囲まれてる?嘘言うな!!僕はそんな経験1度もしたことないよ!!!」
……知らねぇよ。
「僕も、応援するって決めたのに……」
「……応援?」
それってもしかして、しなくていい応援じゃない……?
「会長様と君のこと!」
ですよねー!まだそれ言う人いたの!?誤解だってなりませんでしたっけ!?
「でも君が面食いのたらしだったら、僕は…………僕は応援なんか出来ないんだぁあぁ!!」
感情が爆発した保健委員は、保健室を飛び出していった。
……宮代さん、あなたのファン、あんなのばかりなんですか?大丈夫ですか?
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